【76】春香と夏子と女心と(後)
「────────という感じですね。」
私の複雑な家庭環境などを聞き
真剣な表情を浮かべている夏子さん。
『なるほどね~、はるちゃんにそんな過去が隠されているとは思ってもみなかったわ。
年の割にサトリを開いているような雰囲気のある子だなとは思ってたのが府に落ちました!言いにくいことなのに、話してくれてありがとうね~。』
夏子さんは私との距離を縮めるとそれ以上は何も言わず優しく抱き締めてくれた。
『…ちなみに、稜くんと
こういう話をしたことはあるの?』
「…実は、軽くは言ったことあるんですけどまだここまでの話はしたことがなくて…。だから夏子さんも、今のところは自分の中だけで留めて置いてもらえますか?どうせなら自分の口から伝えたいと思いますので。」
『うん、勿論だよ!さーてはるちゃん飲みなおそうか~?夜はまだまだこれからよ?』
バックの中から、赤ワインのボトルを
嬉しそうに出してきた夏子姉さん。
姉妹がいたらこんな感じだったのかな?
稜さんとは違う安心感を与えてくれるお姉さまとの楽しい夜はあっという間に更けていった。
───そして翌朝
『さて、朝食も出来たしそろそろ
殿方をお越しに行きましょうかね~。』
手分けして軽めの朝食を作り終えると、稜さんと太郎さんの眠るキャンピングカーへと迎えに行くことにした二人は、衝撃の光景を目の当たりにする。
車が近づくに連れて徐々にはっきりと見えてくる、地面に横たわる人影らしきもの…。
『「えっ!!!」』
急いで近寄ってみると、昨晩別れた時のままの姿でゴミの散乱した地べたの上に丸まってスヤスヤと寝ている太郎さんの姿が…。
季節は秋に差し掛かったところで日中は夏日になることも多いが、夜となれば話は別である。しかもここは市街地ではなく山の中のキャンプ場…。
『──こら、太郎!!!起きなさいよ!!』
夏子さんのぶちギレた声が
早朝のキャンプ場に響き渡った。
『…、へ、へ?な、なっちゃん?そんなに怒ってどうしたの…?あ、はるちゃんおはよ~。…あれ?稜は?ここはどこ?』
怒鳴り声に飛び起きたはいいものの回りの状況が全く把握できていない様子の太郎さん。というか、稜さんは…?地面に正座をし、説教を受けている太郎さんの横を通りキャンピングカーの方へと向かう。
「…稜さん?…いるの?」
車内に入り辺りを見回してみると
車のメインベッドに気持ち良さそうに
寝息をたてて転がっている稜さん…。
何故自分だけ車内に入り、気持ち良さそうに寝ているのか…片付けもしてないし、何より太郎さんが風邪ひいたりしたらとか考えなかったのか…?
スヤスヤと呑気に寝ている姿を見て
少し腹が立ってきた…。
「──こら、稜!!今すぐ起きて!!」
布団を剥ぎ取り普段は出すことのない
大声で彼を叩き起こす。
突然訪れた寒さと、聞きなれない女の声に
"ひゃっ?"となんとも間抜けな声を出して
飛び起きた稜さん。
「ひゃっ?じゃないわよ!稜さん?太郎さん外で寝てたのよ?片付けもしないで自分だけ気持ち良さそうに寝てるなんて…太郎さんが熊にでも襲われたらどうするのよ!」
「へ?…はるさん?ん?太郎が…熊…?」
「ち、が、う!太郎さんは熊みたいに可愛いけどそうじゃない!!あっ…」
ふくよかな太郎さんが地面に転がってるのを見て、あれ?熊のキャラクターみたいだなと
思ってしまった心の声が出てしまった…。
ここで笑ってしまっては私の敗けだ。
後ろを向き呼吸を整えると彼の手を取り
車の外へと連れ出した。
「あ、なっちゃんおはよ~。あれ太郎は?」
冷たい目線をこちらに向けてくる夏子さんの鋭い眼光に怯んでいる様子の稜さん。
太郎さんは…まだ正座をしている様子。
『稜くん?おはようございます。
とりあえず太郎の横に座ってくれる…?』
有無を言わさぬ迫力に黙って頷き
太郎さんの横に座る稜さん。
ヤバい…姐さん怖いです!!
数分の説教を受けた男二人は見たこともない速さで車の回りのゴミを片付けると、
"姐さん終わりました!"
と任侠映画で聞きそうな台詞を言い
女帝の前に整列している。
その後、二人の働きを見た女帝の許しを得て
コテージへと向かい用意していた朝食を皆で頂くも、二人はまだ舎弟気分が抜けないのか
"いや~やはり我々の選んだ女性は美しく料理も上手い!幸せだな~"
などと、お世辞を言いながら使用済みの食器をてきぱきと片付けたりと中々の仕事ぶりをみせつけている舎弟二人組。
さすが姐さん!!勉強になります!
こうして、四人で初めてのプチ旅行は
夏子さんを怒らせてはいけないという
教訓を得て幕を降ろした。
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