【16】イケメンと城と求婚と②

もう10年近く前になるだろうか。

連休に暇をもて余した俺は一度だけ東京から中央自動車道沿線を一人ドライブした事がある。

その時は、長野に入り諏訪湖を眺めた後、諏訪大社を巡り松本城に行った。そこからはヴィーナスラインを走り美ヶ原高原を抜け、上田市へと向かう。たしかこんなルートだったはず。


その頃は、松本城にも大した興味はなくテレビで良く聞いた、美ヶ原高原のアモーレの鐘でも見に行こう。そんなノリで一人旅に出たのだ。

長野県で訪れた場所はどこも素晴らしかったが中でも特に印象に残っていたのが松本城と帰り際に立ち寄った上田市にある上田城趾である。俺の城好きはこの一人ドライブで開花したと言っても過言ではない。


青空に映える、黒漆塗りの天守閣。

お堀に架かる朱色の橋。

思わず何度も携帯で写真を撮る。

後から見返した写真達は松本市の観光パンフレットに使えるのではないかと思うくらいによく撮れていた。彼女にはまだ話したことのない若かりし頃の懐かしい思い出だ。


いよいよ高速道路を降り市内へと入る。

ここからは30分ほどで到着できる予定。

彼女は高速道路に入ってからというもの、俺が一人で喋り続ける言葉達を

"ふーん"や"へー"、"そうなんだ"の言葉のみでここまで交わしてきた。

まぁいつものことだけど凄いな…。

さて、そろそろ彼女に松本城の

魅力を話してやりますか~。



「…ねぇはるさん?なぜ俺が

松本城を好きか知りたいでしょ?」


『別に~?いらないとこは聞き流すから

勝手に話していいよ~?』


「もぉ~~!本当冷たいんだからさ~?

てか聞き流すって酷いからっ!

素敵なBGMでしょ?」


『……、早く話してくれます?』


それからしばらく、初めて松本城を見た時の衝撃や上田城跡にも本当は行きたかったことなどを喋り続けているとあっという間に松本城公園の看板が見えてきた。すぐ近くの駐車場に車を停めると俺のテンションは最高潮に達する。


「はるさん、ここでお待ちかねの

クイズタイムが始まりますよ~!!!」

パチパチ(拍手する俺)


『いや、待ってないし!やっと着いたのに愛しのお城に早く会いに行かなくていいの?』


「もう、冷たいんだから~!マメ知識を少し頭に入れておいたほうが見ごたえあると思うよ?さーて、気を取り直して問題でございます。国内に現存する天守閣で国宝はいくつあるでしょうか?」


『ん~わかんない、てか知らない。』


「ヒント欲しい?」


『私が知らなかったら本当嬉しそうな

顔するよね。答えたいんでしょ?』


「はい!正解は5つです!

松本城、犬山城、彦根城、松江城、そして

世界遺産にもなってる有名な姫路城ね!」


『へー。』


「まぁ俺も詳しいことまでは知らないけど、とにかく松本城はイケメン天守閣なんですよ!楽しみにしててよね~♪」


反応するのも面倒な様子で一人看板を

見ながら歩きだした彼女。後を追い、

手を繋ぐと少し嬉しそうな顔をしていた。

全く可愛いやつめ!

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