【17】イケメンと城と求婚と(終)
高速道路を降りてからの彼のテンションは凄かった。クイズタイムまで用意された時にはどうしようかと思ったが、彼がそこまで嬉しそうにしているのを見るのは私も嬉しいし、彼の言うイケメンの城とやらをじっくり拝んでやろうと思った。
話が止まらない彼を置いて一人で歩き始めるとすぐに噂のイケメン天守閣が視界に入る。
慣れ親しんだ大阪城と比べると小ぶりではあるが、遠くに見える日本アルプスの山々を背景にして、快晴の空と共に見る黒漆の城は都会のど真ん中で見るそれとは違い完璧な舞台で自分だけを見て!と主張しているようにも思える。彼がイケメンと言うのにも少し納得できた。
「はるさん?イケメンなお城でしょ?」
『イケメン、っていうか自分の魅せ方を
知っている美しい人って感じ?』
「さすがはるさん、例えるのうまい!自分の好きなもの例えるのに、イケメンの一言で片付けてた俺がなんか恥ずかしいわ~!」
ゆっくりと時間をかけて、お城の周りを歩きながら、外国人に混じって写真を撮る。所々から目に入ってくる、橋をはじめとした朱色も差し色として最高だ。
※
『稜さん、ここまできたのに建物の
中には入らなくていいの?』
「はるさん、中は今日はいいの。
俺、殿様じゃないし!」
『へー。』
「またまた冷たい返事をありがとう~!
あ、はるさん、朱色の橋の左側に立って、
こっちを向いてさ、左手を横に伸ばして
皿を持つようなポーズできる?」
大好きな松本城と、それよりも
大好きな彼女が今、目の前に並んでいる。
こんな幸せなことがあるだろうか?
……、言いたい。
はるさんにあの言葉を言いたい。
「 ねぇ春香?あの朱色の橋はね、
君と僕との未来への架け橋なんだよ?
一緒に手を取り渡らないかい?
……、俺と結婚して下さい!!!」
無表情で俺を見つめている彼女。
『稜さんって本当、意味わからないこと言うの得意だよね~。というか恥ずかしげもなく、さらりと言うところ本気で尊敬するわ。』
「え?はるさん…返事は?」
『ん?返事?あ、そうそう稜さん目瞑って
手出してくれる?いいもの見つけたの~。』
目を瞑って手を差し出すだと?何かイヤな予感しかしないが、ここで拒否したら彼女にうんと酷い言葉を浴びせられるに違いない!
ここは覚悟を決めるしかないか…
「よろしくお願いします!!」
目を瞑り、下を向いて手を差し出した俺の手のひらに、何やら乾いた爪のような感触のものがそっと置かれた。これは…お揃いの指輪のような洒落たものでも、綺麗な石ころでもない…
「は、はるさん?…目開けてよろしい?」
『うん、いいよ~?』
こ、これは…!!!
「ぎゃゃゃーーーぁぁあ!!」
手に乗っていたものを振り落とし
一目散に彼女の背中に隠れる俺…。
『あれ?稜さん、セミ嫌いだった?脱け殻でこんなに大声出すなんて、まだまだあなたのお嫁さんになるのは早そうね~』
はるさんが、俺と結婚する基準はセミの脱け殻が男らしく触れるということなのか…?
『せっかく、つくつくぼうしの
脱け殻あげようと思ったのに~』
ぶつぶつと何か呟いている、はるさん。
こうして、三度目の正直にならなかった俺のプロポーズは、二度あることは三度あるという、ことわざを身をもって実感させてくれるものとなった。
昔の人は本当に上手いこと言ったものだ。
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