【13】ドライブと葡萄畑と求婚と③

彼が運転に慣れているとはいえ太陽が傾き

だしたこの時間から長野まで運転させる

ほどの鬼ではない。

静岡のSAで買った、御殿場高原ビールを

一刻も早く彼に飲ませてあげたいと思った。

彼の窮地を救ったパーキングエリア近くの高速道路沿いにみつけた、二人で一泊8500円露天風呂付きの宿(ラブホ)を今宵の宿とすることにした私達。

到着後早速、ホテルのサービスに目を通す私とワイナリーでの試飲お預けをくらい余程、欲していたのか私の存在など忘れてしまったかのように冷蔵庫に向かい冷してあったビールに飛び付いている彼。今日は早起きして抜群の富士山を見せてくれたことだし、大目にみよう。


「はぁ~~!生き返った!!!やはり俺はビールとはるさん無しでは生きていけません!」


『へー、私よりビールのが大事なんだ?』


ビールを先に言ったことへの当てつけ。

そんなこと、どうでもいいのだが

彼の反応を楽しむことにした。


「はるさ~ん。そんなことあるわけないでしょ~?あ、拗ねてる?も~可愛いんだから♪ちゅーしちゃうよ??」


『……ちゅーはしません。

さて、白ワインでも飲もうかな♪』


彼の返事は待たずに白ワインのスクリューをあける。キスを断られ少しヤケ気味にビールを飲み干しワインを口にする彼。いつもアルコール5%の世界で生きている彼に10%を越えたアルコールは少々きついようだ。


眠気と疲れのせいか、顔を赤くしてかなりの上機嫌で私に寄り添うと飲んでは、私の頬や手にキスを繰り返している。


「はるさん楽しいね~♪」

「はるさん可愛いね~♪」


うん、良い感じに酔ってきているみたいだ。

私がお手洗いに行こうと立ち上がると


「はるさ~ん置いて行かないでよ~!!

俺も一緒に入るよ~!!!」

と駄々をこねている。


彼を立ち上がらせベッドの方へと

連れていき布団の上に押し倒すと


『すぐ戻るからちょっとだけ待っててね?』

と言って彼の頬を触り長めのキスをする。


お手洗いに行くふりをして露天風呂の方へと向かった私は、お湯を溜めながら柵にもたれて山梨県の星空を眺めてみることにした。都会とは違い空気の澄んでいる漆黒の空に浮かぶ星達は綺麗という言葉だけで片付けるには失礼なほどに懸命に瞬いてみえる。


明日の夜には彼と別れまた仕事に追われる日常に戻ることを考えると急に寂しさに襲われてきた。これ以上、このことを考えたくなかった私は服を脱ぎ捨てると、溜まった露天風呂へとダイブする。暑い季節に入る、露天風呂というのも中々いいものだと考えていると突然ドアが、ガラリと開いた。


「も~はるさん、中々帰ってこないからいつの間にか寝てたじゃないの!しかも一人で気持ちよさそうなことしてるしさ~?よし、俺も入るからね♪」


寝起きから騒がしい彼に呆れるが私には

ないものを沢山持っている彼のことが、

やはり大好きなんだと思う。


でも今は…

私のセンチメンタルを返せ!

と言いたい気分だった。

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