【48】鳥居と独り舞台と求婚と②
観光客を物色するように走り回るタクシーを
一台捕まえて乗り込む。
近くではあるが、この暑さの中歩かせて
はるさんが熱中症にでもなったら大変だ。
「はるさん?次は【清水寺】を目指します!涼しい車内で休憩しつつ、次なる舞台へと
参ろうぞよ(笑)すぐ着くからね~。」
『次は清水寺ですか。年末に今年の漢字書いてる場所だよね?違いましたか?』
「あ、はるさん知ってたんだ!
ご褒美にちゅーしましょうか?(笑)」
『……、運転手さーん、この人降ろしたいんで止まってもらっていいですかね~?』
「ち、ちょっと!!冗談じゃないの!!
運転手さん停めないでね~!!!」
苦笑しながらも"仲がいいですね~"と
言ってくれる運転手さんに感謝。
「はるさん?京都と言えば、金閣寺や清水寺が思い浮かびますよね!他に何か思いつくところあります?」
『私、そこまで京都に詳しくないと言うかね、神社仏閣は好きだけどさ京都って色んな所ありすぎて、どこに行っていいかわからないで今まで放置!って感じだね。』
「それはよくわかります!俺だってさ、
若い頃全然興味なかったし、この何年かで
急に楽しさみたいなのに目覚めた、にわか
ファンですからね(笑)だから、俺のうんちくは当てにならないWikipediaっす(笑)」
『稜さんの説明ね、私ほとんど聞き流してますよ?だって話し出したら長いし(笑)』
「うわ~マジすか!(笑)それでもめげずに
話し続ける俺は何者…あ、もう着くね~!」
タクシーを降り、緩やかな上り坂を手を繋いで歩く。こういう時にこそ指のサイズを計るチャンスだ!うーん、よくわからない…。
寺へと向かう道の両側には色々な店があり、いつもなら、店毎につまらない行動をとって、はるさんに呆れられるところだが今日の俺はいつもとひと味違う。違うはず…。
そこには俺の為の舞台が用意されている!
頑張れ稜!!はるさんの指をグリグリしながら、心の中で自分にエールを送るのである。
『…稜さん?先ほどから、指がもぞもぞ
してますけど手、痒いの?』
「あ、ゴメンゴメン!バレました?何か手の平を蚊にやられたみたいなんだよね~!」
ふぅ…何とか誤魔化したのか?それにしても、もぞもぞとは…彼女らしい表現だ。
ようやく入口へと到着。
拝観料を支払い中へと入場する。
はっきり言って、清水寺にはそこまで思い
入れはない!特別見たい仏像がある訳でもない。だが、他には無くてここにあるもの。
それは、清水の舞台だ!
山の斜面に無理やり作ったとしか思えない
このお寺。しかも、柱を何本も建てこの舞台を作った理由。そこまでの知識は、もちろん持ちあわせてはいない。しかし今大事なのは京都の街並みを見下ろすこの場所で、懲りもせずまたしても、はるさんにプロポーズをすること。それが1番大切なのである。
一通りお寺を見終わり、あの有名な清水の
舞台から京都の街並みを二人で眺める。
観光客の姿がまばらになったのを見計らうと、深く深呼吸をして春香を見つめる。
「ねぇ~はるさん?」
『どうしたの?』
「清水の舞台からの眺めはいかがですか?
思わず、ヤッホー!って叫びたい気分だよね?(笑)」
『…稜さん?私離れてるからしてみたら?
山びこは返って来ないと思うけど(笑)』
「さすがにヤッホーは叫ばないけど、
はるさんへの永遠の愛を叫びたい気分だよ!
東京に帰って一緒に住むわけだし、結婚しても良くないですか?」
真顔のはるさん。お得意の無視ですね。
『…稜さん?本当空気読まないよね…。
というか成長がみられない。』
成長がみられないとは。またまた辛辣な
お言葉をこの人はさらりと言いますね。
「よし!こうなったら清水の舞台から飛び降りて、伝説を作ってやる!!」
『うん、私と無関係な人間になってからやってよね?こんなところで事情聴取はイヤ(笑)
さて、もう気は済みましたよね?次の目的地はどこかしら稜さん?』
深く深呼吸をして、空を見上げてみる。
どこまでも広がる青い空を一羽のカラスが
飛びながら鳴いていた。
まるで俺に、"アホ~!"と言わんばかりに。
「はるさん!次は伏見稲荷にレッツラゴー!
あ!運転はタクシードライバーね(笑)」
こうして俺の清水での独り舞台は
スタンディングオベーションがあるはずも
なく、彼女の冷たい感想だけが頭の中を
駆け巡る悲劇となった。
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