【62】疑惑と弁解と求婚と②
財布から諭吉さんを一枚だけ取り出しスマホケースのポケットに挟み込んだ私は上着にスマホだけという軽装で家を飛び出す。
何か考え事をしたい時など、よく一人で空港の展望エリアで飛び交う飛行機を眺めながら過ごしていたことを思いだし、私はある場所へと向かうことにした。
東京駅から出ているシャトルバスに乗り
約一時間ほどで成田空港へと到着。
そう、私達のこの旅の始まりである成田空港で、海亀飛行機をまた見てみたくなったのだ。現在の時刻は午後三時すぎ、飛行機の離陸時間までは、まだまだ時間がある。昼食を食べていないことに気づいた私は、コーヒーショップで軽食をとることにした。
それにしても、あのバッグ…疚しいことがないのなら、あんなところに隠さずに堂々と見せてくれたらいいんじゃないの?ピンクの可愛らしいバッグを持つような女の子か…モノトーンを好み、性格にも全く可愛げのない私なんかに勝ち目はないだろうな。
コーヒーとサンドイッチを受け取ろうとしていると、突然ポケットのスマホが勢いよく私を呼んでいる。きっと、彼だろう。
私が部屋にいないことに気づき慌てて電話をかけてきたというところかな。
それにしてもタイミングが悪い…
まぁ今は電話に出る気はないんだけどね。
なり続ける着信音を無視したまま席へと座りスマホを開いてみると、次はメールが送られてきた。"俺なんかした?"か。
まぁ彼の気持ちもわからないこともない。
機嫌良く帰ってきたら謎の書き置きと引き換えにいなくなっている彼女。
きっと彼は混乱して部屋中を歩き回りベッドの上であのバッグを見つけることだろう。
"成田"とだけ返し、コーヒーを飲もうとしているとまた鳴り出すスマホ…。
彼は物事を深く考えるということをあまりしない。最初に頭に思い浮かんだことをいいも悪いも次々と話してしまう脊椎人間だ。
絵文字も使わず少しきつめの返事を返しスマホをマナーモードに設定して食事を取る。
今は何も考えたくない…。
※※※
高速道路を使い、急いで成田空港へと向かう。きつめの"バカ!"以降、彼女からの返事はないがきっと待っていてくれるはず…。
ぞうさんの場所に車を止めて、以前二人で初めて海亀飛行機を見た展望エリアへと到着した俺は彼女の姿を探していた。
あれ?いない…もしかして移動した?
とにかく広い成田空港の中を闇雲に探すのには無理がある。もう一度電話をしてみよう。
"プルルルルルル…"
出ない。
"プルルルルルル…"
"はい"
"あ、出た!もーはるさんどこにいるの?
展望エリアきたけど全然見つけられないし!でも電話に出てくれてよかったよ!"
"ずーっと、稜さんの後ろにいるわよ?"
へ?慌てて後ろを振り返ると、そこには少し怒った表情を浮かべた愛しい彼女の姿があった。
「ちょっと、はるさん!何で声かけてくれないのよ?一人でオドオドして恥ずかしいじゃないの~でも、会えてよかった~!」
『だって稜さん、何度も私の前行ったりきたりしてるのに全然気づかないし、何を探しにきたんだろ?と思って観察してたのよ。』
俺は何を探していたのか…
全くもって恥ずかしい…
とにかく誤解を取ることが先決だ!
誰もいないベンチに座り持ってきたバッグと雑誌をチラリと確認する。
初めての喧嘩?まぁ彼女が一方的に怒っているだけだが、原因を作ったのは俺だしな。
誤解をといてすっきりしようではないか!
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