【63】疑惑と弁解と求婚と(終)

いつもは饒舌な彼も、二人の間に流れる微妙な雰囲気を感じ取っているのかキョロキョロと辺りを見回したり下を向いて袋の中を覗きこんだりと落ち着かない様子。

先に沈黙を破ったのは私の方だった。


『…稜さん?私が何故一人に

なりたかったかわかります?』


話始めた私の顔を見て

"うんうん"と頷いている彼。


「はるさん?ベッドの上にあった、

女性物のバッグのことだよね?」


『うん、結構新しい品だったし、隠れてプレゼント?っても思ったけど、どうみても私の趣味じゃないしさ…疚しいことないんだったらあんなところに隠すように置かなくてもいいよね?って考えたら何か凄くモヤモヤしちゃったの。』


「…結婚を間近に控えた女子がね、プロポーズされて結婚に踏み切った時に言われた言葉ってどんな台詞なんだろ?って考えた時にこれにだったら載ってるんじゃないかな?と思って思わず買ってしまったの。」


『…え?何を?…稜さん?

私、話が全く見えてこないんですけど…』


いきなり彼は何を言い出しているのか?

頭の中を??マークが飛び交っている。


「いつもいつも、はるさんにプロポーズ

してるでしょ?俺は結構考えて真面目にしているつもりなのに、何ではるさんはオッケーしてくれないんだろ?って思って、解決の糸口を探してたんです。」


プロポーズを断られ続けて、悩んでいたということはわかる。しかし、あのバッグを買ったら解決するのか?全く意味がわからない…


『…稜さん?あのバッグは

稜さんが買ったものなの?』


「…はい!コンビニに置いてあった結婚情報誌の付録のバッグでして…これ、はるさん使わないだろうけど、一応見せようって思ってたんだけどいつの間にかベッドの下に潜り込んでて存在を忘れておりました…!」


そう言って持ってきた袋の中から、結婚情報誌と私が見つけた可愛らしいバッグを取り出して見せる彼。確かに、表紙には特別付録!と書いてあり例のバッグが載っている…。

なんてことだ…、雑誌なんて長らく買っていないしこんな立派なものが付いているとは

知らなかった…。


『稜さん…私、一人で勘違いして恥ずかし

すぎるんですけど…!!稜さんが浮気?まさかね?とは思ってたんだけどさ、見たことないものだったしやっぱり不安になっちゃったんだよね…。稜さん、話も聞かず一方的に

怒ってごめんなさい…。』


ようやく安堵の表情を浮かべて

"よかった~!"を連発している彼。

こんな遠くまでこさせて本当に

申し訳ないことをした…。


「いや~、誤解が解けてよかったよ!最近の本の付録は、しっかりして立派なもの多いみたいだよね~。俺も知らなかったけどさ?

それより、はるさん?俺が違う女子に興味を抱くと思ったの?ありえないでしょ!

そうじゃなきゃ、今も成田まで来てません!

でも、俺こそ疑われる様な物を置いててごめんね~。俺には、はるさんだけだからね?」


以前きた時よりも、人数も少なく夜の帳がすっかり落ちた展望エリア。

今回は私からキスをすることにした。


「ちょっ、ちょっと待ってよ~!

人目…が!はるさーん!!」


『稜さん、イヤなの?イヤなら止めるけど。

暗いんだから顔まで見えないわよ?』



※※※


ようやく誤解も解けて、ホッとしていたところで、はるさんからのいきなりのキス。

彼女は本当に俺の扱いがうまい。


「はるさ~ん!イヤなわけないでしょ?

お言葉に甘えてもう一度熱い口づけを!!」


瞼を閉じてはるさんのキスを待っているが

全く人の気配を感じない。

目を開けて、辺りを探しているとフェンスのところにピッタリと張り付いた彼女を発見。


「ちょっと~はるさん、ちゅーの続きは?」


『稜さん、それどころじゃないのよ!

今から海亀離陸しますから!』


彼氏との甘い時間を"それどころじゃない"

で片付けてしまう彼女。

本当、ツンデレがすぎる…。

真剣に飛行機を見つめる彼女の横顔は滑走路の明かりに照らされて、最高に美しい…。

ヤバい…また言いたくなってきた!

さっきプロポーズで悩んでる話もしたし

もしかしたら、いけるのでは?


「やっぱり飛行機は最高だね!…はるさん?

俺の人生の滑走路になってみない?俺は、

はるさんの為だけにフライトする飛行機になるから!離陸も着陸も、はるさん滑走路!

素敵だわ~!…俺と結婚してください!」


手を差し出すが、一向に捕まれる気配はない。はい、また居ないのね…彼女は動き出した巨大な海亀を追いかけて移動していた。


もぉー!海亀より稜さんに

夢中になってよ~!!

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