稜&春香(千葉県②)

【61】疑惑と弁解と求婚と①

彼との関西弾丸旅行後に、ようやく関東に

戻ってきた私は、正式に稜さんと同棲を始めた。彼から幾度も繰り返される求婚は未だに断り続けたままなのだが。


稜さんの部屋に引っ越してきて一ヶ月。

彼が休日出勤をしていたので、解いていなかった荷物の片付けをしながら一人のんびりと過ごすことにしたある日のこと。


"後はこの荷物を片付けて終わり!

お昼ご飯どうしようかなー?"


一人で昼食を考えながら段ボールに貼られたガムテープを剥がしていく。

ヤバい、大したものも入っていないのに

頑丈に貼りすぎてしまった。


"ハサミかカッターナイフないかな…?"


小物を入れていた段ボールを半分開けて

覗きこむ。あ、あった!!よかったー。

隙間に手を入れて引っ張りだそうとするも

中で引っ掛かっているのか中々出てこない。

渾身の力を入れて引き上げる…出た!!

と思った刹那、ハサミは私の手から離れ

ベッドの下へと入りこんでしまった。


『あーー面倒くさい!!』


大きな独り言を言いながらベッドの下に

ゆっくりと手を入れてハサミを探す。

あ、何か手に当たった。これかな?

ん?布の持ち手?何かを確かめる為にベッドの下から出してみることにした。


『……、なにこれ。』


それは、ピンク色をした可愛らしい女物の

バッグだった。しかも比較的新しいようだ。中にはバッグとお揃いのパスケースまで入っている。

え、何…?これ私のじゃないし、プレゼントしようとしていたにしても、私がこんなピンク色の趣味ないの知っているよね?

同棲しようって言ってるくらいだから二股は

ないだろうけど…もしかして、最近までしてた?それか元カノの忘れ物か…?

四十年近く生きているわけだし彼女の一人や二人…いやそれ以上に居たことはあるだろうが…今まで全く彼の過去について考えたことがなかったことに気がついた。

戦意喪失状態に陥った私は、荷物を広げた

まま散歩に出掛けることにした。


"稜さん、少し一人になりたいや。

理由は考えたらわかるんじゃないかな?

落ち着いたら帰ります。"




※※※※

せっかく朝からはるさんとまったり過ごそうと思っていたのに突然お願いされた休日出勤。いつもよりかなり早めに退社できることだけがせめてもの救いである。はるさん何してるかな~?近所のケーキ屋で彼女の好きなチーズケーキを購入して急いで帰宅する。


「はるさん、ただいま~♪お土産買って

きましたよ~?…はるさーん?」


いつもなら玄関まで出迎えにきてくれるのに

今日は出てこない…。人の気配もないし、買い物にでも出てるのかな?

室内に入ると、開けっぱなしで片付けのされていない段ボールが転がっている。

おかしい…几帳面なはるさんが、やり始めたことを途中で置いたままにするなんて…。

とりあえず、電話してみよう。


"プルルルルルル…"


何度かけても電話には出ず、留守番電話の案内が流れるだけである…。

何…?はるさん…?

部屋をうろうろしていると、ダイニングテーブルの上に書き置きらしきものを見つけた。


「…何これ」


一人になりたいとはどういうこと?

俺が何かしたような感じのことが

書いてあるが…何かしたのか俺?

考えろ…考えるんだ!!


"はるさん?…どこにいるの?俺何かした?"


メールを送り、うろうろと部屋の中を歩き回っているとベッドの上に見慣れない女物の

バッグを発見した。

ん?何だこれは?見覚えはある…。

何だっけこれ…はるさんの物ではない。


スマホの着信音がなり、慌ててメールを開いてみると"成田"と一言だけの返信があった。

へ?成田?何故成田?

はるさんがいない焦りとどう考えても怒っていそうな返事を見て急いで返事を返す。


"なぜ成田?出張とかではないよね…?"


"自分で考えろばーか!"


ヤバい…本気のバカが送られてきた…。


とにかくきっと、このバッグが諸悪の根源であるはず…考えろ、考えるんだ稜!

……あ!これは!だいぶ前に結婚情報誌を買った時に付録でついていたやつではないか!

はるさんはきっと、これを見つけて俺が浮気していると勘違いしたのかもしれない…。

ほとんど喧嘩もしたことないのに、これの所為でこんなことになるとは…。

何が結婚情報誌だよ!

出版元にクレームをつけたい気分だ…。

しかし今はこんなことをしている場合ではない、急いではるさんの誤解をとかないと…

もう一度電話をしてみるも、やはり出ない。


"はるさん、誤解!誤解だよ!今から迎えに行くから絶対に動かないでね!お願い!"


メールを送ると、諸悪の根源である結婚情報誌の本を探しだし付録のバッグを一緒に袋に入れて急いで車へと向かった。

ここから、二時間ほどかかるだろうか…

お願いはるさん、動かないで!!

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