【60】昼食とアイドルと提案と(後)
昼食を終えて俺が奈良県で一番好きな寺である【興福寺】へと手を繋いで向かう。
手を繋ぐ前は少し嫌そうな顔をしていたが
臭いが消えたと証明されるといつものように
俺の左手に指をからめてくる彼女。
左側に立つのは小さい時からのクセらしい。
いつものように到着前にうんちくを語りだした俺の話を聞いているのかいないのか曖昧な返事を続ける彼女だが、手を繋いでくれたのでよしとしよう。
春日大社側の鳥居をくぐり抜け、歩き進んでいると高くそびえ立つ立派な五重塔が見えてきた。
「はるさん?色んな寺院でさ、五重塔を見てきたけど五重塔って何か知ってます?」
『ん?五重塔が何か?確かに京都でも見たし、言われて見たら色んなところにあるわね。何だろう…何かの目印みたいな感じ?』
「さすがはるさん!目印っていい線ついてますわ!実は五重塔っていうのはお釈迦様の舎利を納める墓標みたいなものって言われているんだよ~。あ、舎利ってのは遺骨とかそんな感じのものね!つまり壮大なお墓なんですよ。もちろん、お釈迦様の本物の骨が埋まってることはないんだけどね。代替品として、お米とか宝石とか入れることもあるらしいんだけど、法隆寺の仏舎利はダイヤモンド!なんて話もあるらしいよ~!」
『へぇー、確かにお釈迦様とか実在していたかもわからないし本当に骨とかあったら
びっくりだよね!本物眠ってたら、釈迦の骨をDNA検査!なんて大騒ぎになりそうだし。また一つ勉強になりました、さすが稜さんだよ、ありがとう!それはそうと、今からアイドルとやらに会いに行くのよね?』
「はるさん覚えてたのね~!ここの阿修羅像は本当イケメンなのよ!テレビとかでも話題になったし、もしかしたら見かけたことあるかもだけど!ま、俺の美貌には叶いませんけどね~?」
無言でこちらを見つめている彼女。言葉を発する気配はない。うん、想定の範囲内だけど。五重塔を静かに眺めた後、拝観受付で拝観料を支払い、国宝館へと向かう。いよいよ久しぶりの阿修羅様とのご対面だ。彼女はどんな反応をするだろうか?
「はるさん!これが、仏像界を代表する
スーパーアイドル、阿修羅像様です!どうですか?俺の美貌とどちらが勝ってますか?」
『…ふぅー。稜さん?
美貌って言葉の意味をご存知かしら?』
「え?美しい人でしょ?じゃあこれは知ってます?阿修羅の三個の顔にも、意味あるんだってさ!幼少期、思春期、青年期。真正面は、青年期の顔らしいわ!上に上げてある両手には、太陽と月を持ってたらしいけど…。
あ、はるさんちなみにね京都の東寺に帝釈天像があったのは覚えていますか?俺がイケメンって騒いでたやつね!ここにもあるのよ~帝釈天像!こちらのはあちらほどイケメンではなくて、どちらかというとふっくら顔の女性的な感じがするんだけど。阿修羅と帝釈天は戦いを繰り広げていたっていうから興味深いですわね。」
『へぇー!神様同士でどちらがイケメンとか争ってたのかな。神様が争う理由って私も興味あるわ~。仏像彫るにはモデルとかもいるだろうし、鎌倉時代にもこんな綺麗な顔した人達いたのかな?やっぱり面白いね~。』
神様が容姿のことで争いを繰り広げるとは俺には思えないが、真剣な顔をしてボソッと呟く彼女がまた可愛くて仕方がない。
圧巻の千手観音菩薩像や金剛力士像など千年以上の時を経てここに存在する代物の数々に触れて、この国の歴史を改めて感じる。今この世で大切な人と出会い一緒に様々な場所を訪れることができる幸せを存分に感じることができる時間だ。
「さーて、はるさん車の返却もあるし、そろそろ大阪に戻りましょうか?今日は、はるさんの家にお泊まりして、明日朝から荷物送ったら一緒に東京戻るんだよね?」
『そうだね、明日も早いし帰ろうか。イケメンにも癒されたしね~!あ、今日はうちには泊まらないわよ?荷物片付けて何にもないし大阪にあるホテルにも泊まってみようよ?朝食無料のところとかあるでしょ~?』
はるさんとホテルか…。
ヤバい、にやけが止まらない!
これは急いで帰らなければ!
『稜さん?顔、気持ち悪いわよ?
また変なこと考えてるでしょ~?』
呆れ顔の彼女の問いには答えず、笑顔で左手を掴むと急いで興福寺を後にした。
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