【52】偉人と城と求婚と(後)
彼女に大阪城ウンチクを存分に語り
ようやく辿り着いた入口。
最終入場時間ギリギリに滑り込んだ俺たちは、城に似つかわしくない近代科学の乗り物
"エレベーター"へと乗り込むと、時間が無いため一気に天守閣へと登り、さっそく展望ゾーンから大阪の街並を二人で眺める。
景色をみていると突然、秀吉が乗り移ったかの如く、俺の頭の中には、あの有名な
辞世の句が駆け巡り始めた。
《露と落ち、露と消えにし、我が身かな。
浪花のことは、夢のまた夢。》
彼女はこの句を知っているだろうか?
よし、彼女が知っていたら俺はここで
プロポーズをしよう。
「はるさん?これは誰の句でしょうか?」
わかりやすいように、スマホのメモに書いて
彼女にみせることにした。
『…いつもだけどさ、突然問題出すの本当…好きだよね。…秀吉の辞世の句でしょ?』
こやつ、何故知っておるのだ!
いや、知っていて嬉しいが…
「さすがはるさん!これを知っているとは
中々の秀吉通ですよ?俺、この句大好きなんだよね!何か格好よくないですか?」
『まぁ確かに同感ですね。小さい時に大河ドラマの再放送をおじいちゃんと見て、何故か今でも覚えてるんだよね~。衝撃うけたの。ちなみにどんな意味でした?』
「小さい時から大河ドラマって…どんな
子どもだよ!(笑)意味はね…聞きたいんですか?言っちゃいますよ?」
『言うなら早くしてくれる?(笑)』
「朝露のように生まれ、露が消えるように
死んで行く。大阪での出来事は、まるで夢の中で夢を見ている様だった…。多分、こんな感じだと思います!」
『なるほどね~。死に際にこんな格好いい
言葉残せるとか本当凄いわ。』
俺の彼女はやはり凄い。
実は俺と同じ年くらいなのではないか?
と本気で思う時がある。若いはずなのに常に俺よりも落ち着いて物事を見つめているのだ。やはり俺には、はるさんしかいない!!
「はるさん?この天守閣から天下人はどんな夢を見ていたんだろうね~?はるさんは俺がここから大阪の街並みを眺めながらどんな夢を見ているかわかりますか?」
『…わかりかねますね。』
「それはズバリ、はるさんと俺の名字統一!
これしかないでしょ?!」
『……というか、稜さんの名字って何?』
「え…、はるさん知らないの…?」
『だって会社でもさ、上司から部下まで
みんな"稜"だったり"稜さん"って下で呼ばれてましたよね?だから、私は名字で呼ばれたくないのかな~?と思ってました。』
「まぁ確かに、名字で呼ばれるのはあまり
好きではないんですけどね…。」
俺は自分の名字が嫌いだ。
その為できるだけ会社でも呼ばれないように、人懐っこい振りをして名前で呼んでくれるように仕向けていたのだ。彼女はそこに
まで感ずいているとは。
「はるさん?俺の名字はね…?」
『……、勿体ぶりますね。』
「……"西園寺"と申します…。」
『え?』
「あれ?引きました?」
『いや、思いの外、格好いい名字だったので
言葉が出てこなかっただけです。いい名前じゃん!"西園寺稜"って。あ、そろそろ閉館の時間みたい…!地上に戻りましょうかね。』
まさかこんなところで名字を
発表する事になるとは。
あれ?プロポーズの返事流されてますね…。
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