【26】路面電車と罰ゲーム。

無事にレンタカーを借り二人の新たな

旅は始まった。


『稜さん、今からちゃんぽん発祥の店と言われているところでお昼ご飯を食べようと思います。ナビでどのくらいかな?』


はるさんの中で、すでに旅行プランは決まっているようで一安心。正直、飛行機を降りるまでは本当に生きて彼女に会えるのかという恐怖心に支配されていた為、長崎でのデートプランなど一ミリも考える余裕はなかったのだ。


「ちゃんぽん発祥の店【四海楼】か~!凄いとこじゃん。有名チェーン店のやつしか食べたことないし楽しみだな!ナビではね~、ここから40分くらいかな?よーし、四海楼に向かってレッツラゴ~♪やっぱり車は落ち着くね~」


『また言いますか…』


落ち着くとは言ってみたものの、初めて降り立った長崎で初めて握る車種のハンドル。運転は大好きで、 何時間でも大丈夫な俺でも多少の緊張はする。緊張をほぐす為に、走り出した車内で飛行機について聞いてみることにした。


「はるさん?飛行機って怖くない?」


『え?何が怖いの?車のほうが余程怖いと思うけど!考えてみてよ?空に歩行者とか、自転車とか動物とか走ってる?』


「居ません!」


『ですよね~?対向車が突然はみ出てきたり、猪に突然ぶつかってこられたりとかないよ?だから余計なことは考えずに安全運転してよね?稜さん、運転しながらいつも私の顔をチラチラ見る癖あるし。男性は道端を綺麗な女性とか歩いてたら無意識に三秒くらい見てるらしいよ。わき見運転ね。飛行機は自動運転もあるし二人で運転しているんだよ?絶対そっちのほうが安全だよね。』


なるほど…。確かにそうだな。

先日、仕事の帰り道に突然道に飛び出してきた猪と正面衝突をして、車の修理を余儀なくされた俺は納得せざるを得なかった。


空港のある海沿いから、車は山の方向へと進路を変える。穏やか海にサヨナラをして、彼女の言う四海楼がある長崎市内へと順調に車を走らせていた。


『稜さん、今日はどうして無口なの?

普段はずっと喋り続けてるのに。』


「はるさん…俺、ちょっと緊張してます。初めて走る道だしさ、長崎の人がどんな運転するか、未知数じゃん?」


『なるほど、まぁ確かにそうだね。市内中心部に近づいてきたら路面電車もいるしこの調子で全集中だね!』


「え?はるさん何て言いました?」


『ん?全集中してね?』


「違う、その前!路面電車って言った?」


『あー、言ったけどそれが何か?まさか地理オタクなのに路面電車走ってるの知らなかったの?』


完全に忘れていた。一気に不安に駆られハンドルを握る手に力が入る。はるさんの横顔を見る余裕もない。後、20分もすれば路面電車との壮絶な戦いが始まる。


『稜さん大丈夫?緊張してるみたいだし簡単なゲームでもしようか?今から通る道の三つの信号を通過するまで私の顔を絶対に見ない、赤信号の時もね?稜さんが勝ったら、ちゃんぽんは私の奢りで負けたら出してよね?』


ん?三つの信号の間はるさんを見ないだけ?

車は諫早市から長崎市内に入っていた。市街地なら、信号もあちこちあるだろうし特に問題なく、クリアできる条件である。止まっている間にこの可愛い顔を見れないのは辛いが。


「はるさん?俺を甘くみていますね!そんなの簡単じゃないの!よーし、はるさんの奢りでちゃんぽんに餃子も食べまくるぞー!!」


1つ目の信号は難なくクリア。

[次の信号を左折です。]

ナビの指示に従い、赤信号で止まった俺は左のウインカーをつける。あー、顔を見たい…。止まる度にじっくりとはるさんの顔を見ている俺の癖を巧妙についたゲームだな。

でも後少しで、はるさんの顔をじっくり見ながらチャンポンと餃子をタダで食べられる!

信号が青に変わり、ゆっくりとアクセルを踏み込み、左折を開始。

(よし!やったぜ!)

そう思った瞬間…俺の後ろからけたたましい警笛の音がした。ルームミラーに視線を移し確認してみると…何とも巨大な電車が俺を後ろから煽っているではないか!!


「はるさん!ヤバい!後ろから電車が!!」


思わずはるさんの顔を見てしまった。


『あ、稜さんの負けー♪もう少しだったのにね。これが噂の路面電車ですよ~。道路にレール出てきてたの気付いてなかった?』


「気付くわけないじゃん!!

俺は一体どうすればいいの?!!!」


『稜さん?落ち着いて?進路変更して

路面電車を先に行かせれば良くない?』


「…、そ、そうだね!!頑張る!!あー俺のちゃんぽんと餃子が…。はるさん、このタイミングわかってたよね?」


「何のこと?あー、稜さんの奢りで食べるちゃんぽんは美味しいだろうね♪気にしなくてもさレンタカーで福岡ナンバーだし、きっと観光客って思ってるから大丈夫よ?』


何の気休めにもならない言葉を

嬉しそうに呟く彼女。

なんだかんだ言っても、そこにはフォロー

しようとする彼女の優しさが感じられる。

一回りの歳の差があるにもかかわらず、

俺は彼女に甘え、彼女はそんな俺をいつも

優しくたしなめてくれる。


「もーーー!はるさん、好き!!!」


『何で今?結婚って言わないだけましか。それより、稜さん?もう店の前ですよ?』


さーて、はるさんにお腹いっぱいちゃんぽんと餃子を食べさせてあげることにしよう。

その後は大浦天主堂近いって言ってたし…

あれしかないな!!


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