【28】ちゃんぽんと教会と求婚?(後)
昼間としては少し高めの食事代を支払うと
近所にある有名な【大浦天主堂】へと向かう。彼女は大満足な様子で何度もお礼を言ってくれていた。それだけで罰ゲームとはいえ気持ちがいいものだ。
さて、教会と言えば結婚式。
結婚式といえば…?そうプロポーズだ。
ここでやらずにどこでやる??
はるさんに次の行き先を聞いてから、一人で
そわそわしながら作戦を練っていたことはバレてはいないはず!
はやる気持ちを抑えきれずに彼女の手を
掴むと、早足で現場へと向かう。
『稜さん?何か急いでません?』
「そんなことないよ?はるさん少し食べすぎたでしょ?少し運動したほうがいいと思ってさ?ほら!有酸素運動ね!!」
『……、私をデブだと言いたいの?』
「滅相もございません!!!
はるさんは何にも気にしなくていいの~♪」
いよいよ入館料を支払って、階段を登った先には本日の舞台が用意されている。猛暑の時間帯ということもあり、そこまで観光客がいないのが救いだ。入口で待ち構えるように佇むマリア様がきっと最高の舞台を整えてくれているはずだ。
マリア様へと続く階段を登るとそこには白い建物に緑色の屋根が青い空に映える対称美が素晴らしい建物がそびえ立つ。石段で滑らないように彼女を紳士的にエスコートする為、手を差し出そうとした刹那、俺の腹部に嫌な痛みが走った。
「ん?この感覚……ヤバい予感が…」
あまりの痛さに心の声が出る。
『稜さん?いきなりどうしたの?急に立ち止まったと思ったら、何やら呪文みたいにブツブツと独り言?』
「…大丈夫、大丈夫!多分昼ご飯を
いつもより食べ過ぎたからかな?」
『お爺さん、本当大丈夫?
介助は必要ないですかぁ?』
「全然大丈夫だし!もぉ~本当に
嫌味なはるさんだな~!」
『好きなくせに~』
確かに大好物だ。優しすぎる女性よりも
少し意地悪なくらいが心地よい。
しかし今はそれどころではない…
先ほどよりも腹部の違和感は増すばかり。
これは誰もが経験した事のある、そう…"便意"と言う名の腹部への連続攻撃だ。
天主堂の入口に近づくにつれ、その攻撃は激しさを増すばかり。俺の下腹部内ではボクシングの試合が行われているかの如くパンチが連打されているような感覚で、歩く以外なすすべのない俺を内側から容赦なく痛めつけてきている。ようやく階段を登りきり、マリア様のお膝元まで到達すると大量の冷や汗が出てきた。
『あ、これマリア像?なんか神々しいね~』
彼女がこちらに話しかけているが正直それどころではない。俺を見下ろすマリア像に向かってトイレの場所を聞いて走りだしてしまいそうな勢いだ。
彼女の問いには答えず
「マリア様!この窮地をお救い下さい…もし何事もなくはるさんにプロポーズをしそれが受け入れられた暁には、キリスト教に改宗しても構いません…。もうダメだ…。」
『稜さん?一人で何言ってるの?
さっきから様子変だけど、本当大丈夫?』
返事を返したいのは山々だが返す言葉を探す余裕はない。彼女に向かって愛想笑いをすると手を強くひき開かれた天主堂の中へと足を踏み入れた。
入った瞬間に、過去へとタイムスリップしたかのような感覚をうける厳粛な空間。正面のカラフルなステンドグラスにはキリストの絵があり、右手には先ほどよりも小さめのマリア様が子供を抱く像。それを見た俺は、彼女が知らないであろう昔、流行ったあるアニメの名シーンを思い出す。日々に疲れた少年と愛犬が大好きな絵画を見た後、天使に迎えられ、天国へと旅立って行くあのシーン。
国宝のあまりにも素晴らしい空間に心を奪われたお陰か、先ほどまでお腹で行われていた壮絶な試合も落ち着きを取り戻している。やるなら今しかない!!
「はるさん?こっちに来てさ、正面に立って俺の方を向いて、少しだけ目を閉じてよ。」
『何?またつまらない事企んでるよね?』
面倒そうに近寄ってきた彼女に向かうと床に右膝をつき、視線を床に向け右手を彼女へと差し出す。
「はるさん!!」
その時だった。最大の山場という時に
先ほどまで成りを潜めていた試合が
再開されてしまった。この世に神はいない。
何発ものパンチの波が押し寄せてくる。
もう駄目だ…。
「…はるさん、俺を今すぐトイレに
連れて行って下さい……!!!」
『…え!!!』
(はぁ~、間に合った…)
試合を繰り広げていた主を外に追い出しトイレから出てくると、ハンカチを持った彼女が口を手で抑え笑いをこらえられないという表情で待ってくれていた。
『本当、間に合って良かったよね~。
国宝でお漏らしとか、一生言われるよぉ?』
「も~、本当大変だったんだからね?さて、すっきりしたから元気復活!!次はどこへ行きますか~?楽しみだね~♪」
『本当、調子いいよね~』
結局、神の前で膝まずいてトイレを懇願
しただけに終わった大浦天主堂…。
彼女へハンカチを返すと、最初に迎えて
くれたマリア様の前に立ち、胸に手を
当てて十字を切る真似をする。
(マリア様!キリスト教へはまだ改宗しないけど見守ってくださいね!)
何してるの?という冷たい視線をさけ
彼女の手を握ると軽やかに戦場を後にした。
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