【43】求婚と牛と楠の木と(終)

本殿で参拝した帰り道の楼門を通過後…

なにやらカップルが集まる場所がある。

二つ目の楼門に見とれている彼を置いて

その場所に向かってみると、そこには楠の木が二本寄り添うように立っている。どうやらそれを"夫婦楠"と呼び、お参りすると末永く一緒にいられるというパワースポットらしい。


『稜さーん?こっちだよ~?』


楼門に夢中になりすぎて私に置いて行かれたことに気づいた彼を手招きする。


「もーはるさん、驚いたじゃないの!!

一人で何見てたの?」


『これね、"夫婦楠"って言うんだって!

触ってお参りしたら末永く一緒にいられるらしいよ?お参りしときます?』


話を聞いて目を輝かせながら木を

見つめ始めた彼。しまった…。

また彼にエサを与えてしまったようだ。

暫く様子をみることにしよう。


━━━三分後。口を開いた稜さん。

さて、どんな言葉が飛び出してくるのか。


「はるさん?私は貴女の牛です。背中にお乗り下され!牛なのでゆっくりとしか進みませんが、ずっと貴女と歩む所存でございます。

結婚しませう!」


う、牛??少し黙ったと思ったら牛ですか!

敷地内にやたらと牛の像があったのを思い出したのか?夫婦楠とか目の前にあったら普通


"この夫婦楠のように一生添い遂げましょう"


とかそんな感じで使うでしょ!!

本当に彼の頭の中を開けてみてみたい…。


『稜さん?気は済みましたか?買い物しなきゃならないし、そろそろ行きますよ~?』


「え?はるさん?俺の求婚は無視ですか?

待ってよー!!置いてかないでよ~!」


本当に彼は面白い。



後回しにしていた御神牛を触りに行った後

大鳥居をめがけてずらりと並んでいた土産物店で、色違いのお箸と箸置きセットを買うことにした。彼にはまだ告げていなかったとはいえ何故私は昨日、有田ポーセリンパークに行ったときに、皿や湯呑みを買わなかったのだろうか…何だったら唐津でもチャンスはあったのに!!今更ながら悔やまれる。


「はるさ~ん、揃いのお箸使うの楽しみですね~♪はるさんって全然物欲ないしさ、今まで行ったところでも何かお揃いのやつ買いたいな~?って思うこともあったから、一緒に買おうって言ってくれて凄く嬉しかったのです♪」


『…稜さんってさ実は女子でしょ!確実に私より乙女なこと考えてますよね?プロポーズの言葉も基本メルヘンチックだしさ?(笑)』


「それは違うな!はるさんが俺より

男前すぎるだけですよ!(笑)」


『ばーか。』


楽しい旅行もそろそろ終わり。

もうすぐお別れの時間だ。

新幹線の中で彼は泣かずに済むのだろうか…

本当は私だって寂しいし泣きたいんだよ?

彼には言うつもりのない言葉達を飲み込むと

彼を急かして駐車場へと戻る。


(夫婦楠様、お願いします!稜さんと

ずっと一緒にいられますように!!)

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