【22】友人と居酒屋とダメ出しと(終)

「でさ~、プロポーズしたんだろ?まぁ成功してたら結婚しますの報告くらいしてくるだろうし、ダメだったんだろうけど?」


こいつ、俺の事で滅茶苦茶楽しんでやがる。

結婚して可愛い奥さんがいる余裕なのか?

笑いながらズケズケと正論を言う太郎に対し、残念ながら反論する余地もない。


「プロポーズはしましたよ。何度もね!

ことごとく、断られましたけど…以上。」


"ブハッ"

飲みかけたビールを吹き出した太郎は慌ててテーブルを拭きながら、ちらちらと俺の顔を見上げている。


「太郎、なんだよ…笑いたいんだろ?

というか笑い飛ばしてくれ!!」


「いやいや~親友がプロポーズを

失敗した話を聞いて笑うやつがいるか?

僕はそんな下衆な人間ではないっ!!」


思いっきり笑ってますけどね、あなた。


太郎は一度深呼吸をし、落ち着いた様子を

みせると、真面目な顔をして話し出す。


「で、どんな感じでしたの?稜の事だから、また笑いに走ったんじゃないの~?」


「どんな感じと言われても…俺は笑わせようとかそんなつもりはなかったんだけど、きっと春香は真剣には受け取ってくれなかったのかもしれないな。なんせ、一番最初がラブホだったからな…。」


「は?ラブホでプロポーズ?」


それまで半笑いで聞いていた

太郎の顔つきが突然厳しくなった。


「お前まさか、酒飲んだ勢いでとかじゃないよな?それ、男の俺でも冗談だとしか思わないぞ。ちなみにそれだけじゃないんだろ?その後はどこでしたの?」


「…次は、山梨の葡萄畑と松本城?その次は旅の別れが惜しくて帰りの車の中だな。」


「……、何回するねん!!

で?はるちゃんの反応は?」


「一回目の時は、酒飲みながらこんな

ところでとかありえな~いみたいな?

二回目三回目も、軽く流されて終了。」


"はぁ~"と深いため息をつき、じーっと笑い抜きの顔で俺の目を見つめてくる太郎。


「そりゃそうでしょ!稜、プロポーズのこと

軽く考えてない?一生の問題だよ?はるちゃんの人生…半分もらうんだぞ?お前の性格上、今言いたい!とか思ってやってるんだろうし、悪気はないことは、はるちゃんもわかってるだろうけどさ。僕が言うのもなんだけど、何か違う!まだ嫌われた訳ではないしチャンスはあるでしょ?もう少し真剣に考えようぜ?」


まさかこいつに、恋愛のことで説教される日がくるとは…。しかし正論しか言っていない太郎に対して返す言葉などあるはずもなく、泡の消えた琥珀色のぬるい飲み物を体内に入れることしかできなかった。



太郎と別れ帰宅後、本日最後の缶ビールの封を開ける。太郎はきっと帰ってから、なっちゃんに俺の話をするのだろうな。

帰って家に話し相手がいるというのはどんな気持ちなのだろうか。家族と離れ何十年と一人暮らしを続けている俺にはもう誰かが家にいる生活というものが想像すらできない。そんなやつが軽々しく結婚してくださいなんて言ってもいいものなのだろうか。太郎に言われた正論の数々を振り返りながら冷たいビールを飲んでいると、スマホの着信音がなった。

春香からだった。


「稜さんお疲れ様~、もう帰ってきたの?あ、話し変わるけどさ、お盆休みの予定決まってないよね?さっきテレビで見たんだけどさ、長崎行きません?あ、予定あったりイヤなら一人で行くからいいんだけどさ~?」


またまた突然の誘い。

しかも相談なしの決定事項の報告だ。

俺も一方的だが彼女も絶対に負けていないなと思いながら服従の言葉を贈る。


「はるさん、お疲れ様~!何、長崎?俺がはるさんの誘いを断るわけないでしょ?俺の休み予定なんてはるさんと一緒以外考えられないし。詳細はメールで送ってよね?」


「さすが稜さん、ありがとう~!飛行機の時間とか詳細はメールで送っておくから早いうちに見といてね~。じゃ、おやすみなさ~い♪」


長崎というか、九州へ行くの初めてだな?と思うのと同時に、先程まで突然のプロポーズなどで困らせているのでは?と悩んでいた相手に振り回されている自分が可笑しくなってきた。

これが俺たちの自然な形。


"太郎よ、俺たちはきっとこれでいいんだ。

プロポーズの仕方は少し考えるから。

もう少しだけ見守ってくれよな?"


既読になったのを確認して布団の上に

転がると、そのまま目を閉じた。

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