【10】次の行き先は?

寝ているおじいさんを起こさないように

駐車場を出発し車を走らせていると何やら

先ほどから彼女の様子が変だ。やけに俺の

太ももや脇腹に触れてくる。それは嬉しい

のだが、急に何が起こったのか?


「はるさん、どうしたの?

嬉しいんだけど気になるよ~?」


信号待ちで彼女の顔をチラリと覗いてみると目が合った彼女は不機嫌な顔をしている。


『お腹空いたの~、もう無理だ。無理~!』


どうやら彼女は、お腹が空くと機嫌が悪く

なる人種らしい。赤子かよ!と突っ込み

たくなるがそれでも可愛いくて仕方ない。


「確かにそうだね、あれだけ歩き回ったし

俺もお腹空きましたわ。はるさんは今何を

食べたいの?どうせなら、なにか静岡名物

食べたいよね~?」


俺はポケットに入れていた若い女子が好み

そうな、酸っぱい系のグミを差し出すと

ご機嫌斜めな姫の様子を伺う。グミで少し

落ち着きを取り戻したのか元の通り、俺の

左手をしっかり握り考えている様子の彼女。


『えー、静岡だよね?…。お茶?鰻パイ?

それくらいしか思いつかないな。

稜さん他にあるっけ?』


話を振られたら最後、また俺の静岡うんちくタイムの出番である。彼女は相槌をうつこともせず、窓の外を眺めるマネキンのようだ。


「あ、桜エビのかき揚げ丼だって!

蕎麦もあるみたいだし行ってみようよ。」


『それいいね!よし行こう!!』


ふと目に入ってきた、国道沿いに出ていた

看板に導かれ駐車場に入る。

結構人気の店らしく、前に五組ほど並んで

いたが彼女は待てるのだろうか。隣にあったコンビニへと向かい山登りの疲れを癒すべくノンアルコールビールを2本買い待っている間に飲むことにした。その間も相変わらず

彼女の容赦ないボディタッチが続く。口に

液体を含むのを確認してから脇腹に指一本で攻撃をしかけてくる彼女はきっと前世で、秘功を操る世紀末救世主だったのであろう。


彼女が知らないであろう漫画を思い出し

ながら液体を吹き出さないよう攻撃に耐えているとようやく順番が巡ってきた。名前が

呼ばれると、今までの不機嫌さを微塵も

感じさせない笑顔で店員に愛想よく返事を

している彼女。そんなところもまた可愛い。


名物の桜エビかき揚げ丼とミニ蕎麦を食べ

終わり、お茶を飲みながらゆっくりとして

いると突然彼女が顔を近づけてきた。


「どうしたの?ちゅーでもする?」


そんな俺の言葉は全く聞こえていない

様子で彼女はこちらをみつめている。


「ねえ、稜さん!今から長野行かない?

近くはないだろうけど隣県だよね?稜さんもお城みたいでしょ?松本城?」


またまた驚かされる彼女の言動。俺が松本城を好きなのを彼女は覚えていたらしい。

嬉しい!素直に嬉しい!だけど、はるさん?

静岡県と長野県の間には、山梨さんが

居ますよ~?という言葉を飲み込み


「少し遠いけど、まだお昼だし行けそう

だね!お城見るのは明日の朝イチにすると

してとりあえず向かいますか~!!」


ご飯を食べ終え、車に乗り込むとナビを

長野県松本市にある松本城にセットする。

まさか昨日の夜には思ってもいなかった次の目的地、長野県へのドライブの始まりだ。


東名高速道路の静岡ICから高速に乗り

新清水JCTから中部横断自動車道、双葉JCTからは中央自動車道。東名と中央は知って

いるが、中部横断自動車道って何?

と思いながら、東名の入り口を通過した。

片道約190㎞、およそ3時間の移動で

済むなら楽勝だな。もう1日彼女との

楽しい旅行を続けられるのならば200km

でも300kmでも走ってやる!!

そう心の中で叫び声をあげると

彼女の右手をしっかりと握りしめる。


『稜さんどうしたの?』


「何でもないよ~♪安全運転で行くね~。」


彼女が握り返してくれた俺の左手に

温もりと共に愛を感じた気がした。

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