【1】空港に海亀?(前)

いよいよ明日、海亀飛行機の一般就航が始まる。彼はきっと休日、もしくは仕事帰りに時間を作り写真を撮ってきてくれるとは思うが、現物を見たくて我慢できなくなった私は就航予定日に半休を取り、関西国際空港から成田空港へ向かう午後からの便に乗ることにした。

彼には直前まで内緒。夕方前に到着し、夜まで成田空港で飛び交う飛行機を堪能しながら待機する予定だ。


"今日の19時、成田空港にきてね!"


成田空港へと無事到着した私は、彼にメッセージを送りフライト案内の表示を見て海亀飛行機の出発ゲートの場所を確認。後は時間まで、大好きな飛行機達を見放題だ。友達には理解されない私の密かな趣味だが、稜さんはこんな私の趣味を理解し可愛いと言ってくれる。

変わったラッピングの飛行機が着陸しようとしているのを見つけ、スマホのカメラを機動させたところで突然彼の名前が画面に表示された。…なんてタイミングが悪い。


「もしもし、はるさ~ん?メール

みましたけど…どういうことですか?」


いや、書いてるし!!!

19時に成田空港きてって書いてるし!!

それ以外の意図なんてないわ!!


と突っ込みたかったが早く電話を切りたかったので送った内容を早口で告げ"待ってるよ♪"と可愛く付け加えると急いで電話を切った。着陸の瞬間は見逃してしまったが近くに止まったので許してやろう。


※※※


小休憩中にスマホを確認すると、彼女からメッセージが届いていた。


"今日の19時、成田空港にきてね!"


ん?どういうことだ?

急いで電話をかけてみたものの、すぐに切られてしまった。ん?もう空港で待っているのか?頭の中の疑問を整理する。

彼女の行動はいつも突然だ。

俺は、海亀飛行機の写真をいつ撮りに行くと、はっきり返事をしたわけでもないし、多分我慢できなくなって半休でも取ってやってきたという結論にたどり着いた。電話をすぐに切られたのには少し呆然としたがまぁいつものこと。成田空港にいるということは、きっと珍しい飛行機でも飛んできて写真を撮りたかったのだろう。行動に可愛げは全くないが愛しの彼女に久しぶりに会える。今まで以上に仕事のスピードをあげると定時5分前には帰宅準備を終わらせ終業のチャイムと同時に職場を飛び出した。



「はるさんお疲れ様~!今日も可愛いね~♪また突然やってくるしさ?まぁ嬉しいからいいんだけどさ?」


ベンチに座っていた愛しの彼女を見つけテンションマックス状態の俺は人目もはばからず大声で声をかけた。はるさんは、俺の顔を見て少しだけ笑顔をみせたものの、大声で話し続ける俺に警戒している様子だ。ここで飛び付いてきてくれたらクルクル回してお姫様抱っこしてあげるのに。


『稜さんお疲れ様~、もう少し声量さげましょうか?というか時間ないから先にご飯食べに行くよ!!蕎麦でいいね?』


俺の手を掴み、先に調べておいたのであろうレストラン街にあるフードコートへと直行する彼女。自分が主導権を握っている時の計画性と歩行の速さにはいつも感心する。久しぶりに繋がった、彼女の右手を強く握ると耳元で声量を落とし"愛してるよ"と囁く。彼女は歩きながら"知ってる~"とハニカミながら返事をし、繋いでいた左手をキュッキュッと力を込めて二回握り返してくれた。なんと幸福な時間なのだろうか。


この時の俺は、あれに嫉妬することになるとはまだ夢にも思っていなかった…。

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