【番外編】キャンプとビビりとヒーローと(前)

KAC20228 お題「私だけのヒーロー」


年下彼女にゾッコン彼氏(稜さん)と

ツンデレ彼女(はるさん)の物語。

ある夏の日の休日にキャンプ場に

きていた二人に訪れる試練!


お題違いますが、前中後と

短編三部作となります。


八月一日から、本編再開予定です。


~~~~~~~~~~~


夏の日のある休日、俺達は

山間にあるオートキャンプ場で

休みを満喫していた。


「いやー、はるさん!山の上は

下界と違って涼しくていいわね~」


『本当、テント建てて寝るんだったら反対してたけど車の中なら蚊に悩まされることもなさそうだし、夜には涼しい中で綺麗な星空も見えるし最高ね?』


車の横に立てたタープの下ではるさんと

二人、お酒のアテをつまみながら

ビールを楽しんでいると、隣のスペースから

何やら楽しそうな子供の声が聞こえてきた。


”お父さん、見てみて!セミ捕まえた!でも僕…触るのちょっと怖いかも…お父さん、カゴの中に入れてくれる?”


”よし、父さんに任せろ!”


いいな~?微笑ましい光景だな~?

もしも、はるさんと結婚して子供でも

出来たらこんな感じなんだろうな~?


『ん?稜さん、ニヤニヤしてどうしたの?完全に顔が緩みきってますけど、昼からビール飲めるのがそんなに嬉しいのかしら?』


”ぎゃっっっ!!”

”うぇ~ん、せっかく捕まえたのに~”


ん?なんか隣が騒がしいな…


「もぉーはるさん!俺はただ、何気ないこの日常に幸せを感じて感謝してただけよ?ほら、隣のサイトを見て?なんか微笑ましいじゃないの……ってうわっーーー!!!は、はるさん、う、後ろー!!!」


先程子供が捕まえたセミが、カゴに入れようとした父親の手をすり抜け、バサバサと乾いた羽音を響かせながら、こちらへと全力で飛んできている姿が見え、はるさん横のタープの支柱に停まった。


「ぎゃっっ、ぎゃーーーー!

はるさんの横にせ、セミがぁーーー!!」


『ん?セミ?…あら、本当。何ゼミかしらね?んー、茶色いしアブラゼミね。』


な、なんだ?この落ち着き用は…

すると、先程セミを取り逃した子供が

こちらへと走ってきた。


”ねぇ、お姉ちゃん?このセミ

捕まえてもいいかな?”


『もちろん!ゆっくりとセミを

驚かせないように気をつけてね?』


天使の笑顔を浮かべ、優しく子供と

話すはるさん。

俺には絶対に見せない、また違った魅力的な微笑み。あー、もう、可愛い!!!

ん?でも待てよ?もしもこの子供がセミを取り逃したら暴れながら俺のところに飛んでくるのではないか…??

嫌な予感しかしないが、ここで逃げるような素振りを見せてしまったらはるさんに、頼りない男という印象を植え付けてしまうかもしれない…。現にはるさんは、ビクともしていないしな。

よし、ここは男らしくドッシリと構える!


「はるさんは、虫怖くないの?」


『ん?別に好きではないんだけどさ、大人の私たちが虫を見て怖いだのなんだの騒いでたら、子供に”虫は怖いもの”とか”汚いもの”って植え付けちゃうんじゃないかな?ゴキブリは私も嫌だし、スズメ蜂とか危ないやつなら危ないよ?って言うけど、セミって何もしないしね~?あれ?稜さんはもしかして怖いのかしら…?』


なるほど、ド正論だ。

知らない子供の好奇心や未来の選択肢まで考えているとは…彼女は…悟りを開いた菩薩…いや、如来のような人だな!


こうしてはるさんの手ほどきもあり、子供は無事にセミをゲットして嬉しそうにお父さんの元へと帰って行った。

長かった昼が終わりを告げ、綺麗な夕焼けと共に辺りが薄暗くなってきた。

セミ騒動で少しだけ肝を冷やしたが、はるさんの新たな一面も見れたし大満足だ。

ここからはワインでも飲みながらしっとりと大人の時間を満喫することにしよう。

日が沈む前にタープや辺りを片付け、冷房の効いた快適な車内へと戻ろうとした刹那、事件は起こった。


『よしっ、これで片付けは終わりね。後は車内で虫を気にせずワインでも飲みましょう』


”ジーーーー、バサバサバサっ、ピトっ”


車内に入ろうと、山側に背を向けていた俺の耳元を、昼間聴いた羽音とは違うが確実に虫であろう物音が通りすぎその直後、背中に違和感を感じた。


「は、は、はるさん…?お、俺の背中…

なんか、ついてませんか…?」


『ん?背中?ちょっと待ってね?あ!!

稜さん、セミが!!しかも…えーーー!!』


「えーーー!!って何よ!!何なのーー?」


『いや、これ…ヒグラシだわ!!えーー私実物みたの初めてかも!!ちょっと動かないでよ?写真撮るから!!』


いやいや、先に背中を救出してくれ!

頼む、はるさん!!と言うのを我慢し、

無言でじっとする従順な俺。


背後からは興奮したはるさんの一人言とカシャカシャというスマホのシャッター音が響き渡っている。な、なんだこの光景は…。

沢山の写真を撮り、気が済んだはるさんは素手で触るのは怖いらしく、見つけたビニール袋をそっとヒグラシにかぶせ捕獲。

ようやく背中の違和感から解放された。


「はーー、助かった…もう、はるさんは菩薩?いや如来?ダメだ、神に手を出したらダメだな?もー、ヒーローでいいや!はるさんは俺だけのヒーローです!!命を助けてくれてありがとう!!これからも俺を守るヒーローでいてください、そしてあわよくば結婚してください!!……って聞いてないし!!」


『ん?何か言いました?あ!あの子にも

見せてあげよう!ちょっと行ってくる!』


”えぇーー!お姉ちゃん、凄い!!

ヒグラシなんて初めてみたよ!

凄い!!お姉ちゃんはヒーローだ!”


カナカナカナカナカナカナ~♪


こうして、ある夏の日の休日は

賑やかに暮れていったのだった。

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