【日常編】春香の○○は遥か彼方へ

カクヨム誕生祭2020!

最後のお題は【どんでん返し】


48回目のプロポーズ、サイドストーリーになります。読んだことのない方でも

考えさせられる内容?のはず…



※※※※※※※※


私達の旅もここで終わり。

最後の場所が彼が一番行きたくないと言っていたこの場所になるとは…。

私がもっと早くに彼の変化に気づいていれば

こんなことにはならなかったのかもしれない。悔やんでも悔やみきれない…。

彼のいないこの世界に意味なんてない。

空と同じ色をした、見渡す限りのコバルト

ブルーの海を見ながら手のひらにある指輪の

感触を確かめる。



~~~~~~~~~~~~~


大好きな春香へ


はるさんと出会ったのは、三年前の花火大会の日だったよね?いきなり二人で花火を見に行ったのをきっかけに次の日から仕事の昼休みは一緒に屋上に行って過ごすようになって。

その年、初めて雪が降った日だったよね。

雪も綺麗だし…そろそろ俺と付き合っちゃえば?って強引に告白してさ?

はるさん、ぽかーんとしながらも"いいよ"

って言ってくれたの。

そんな感じで始まった二人だったね。

初めは会社にも内緒にしてたから大変だったよなー。太郎やなっちゃんには、いっぱい

からかわれるしさ。出会ってから約三年。

初めてこうして手紙を書いていますが、はっきり言って恥ずかしいです。しかも何故いきなり手紙を書くの?そう思っているよね?

きっと、はるさんの顔を見たら泣いて話せなくなりそうなんだ。だから手紙を書かせてください。


実はね俺、病気になったみたいなんだ。

その病気がね、父親と同じ難病で治る見込みがないんだよね。未だに治療法が確立されてないみたいでさ。この前の会社の健康診断で発見されたんだけどね、既に手遅れらしいの。医者に言われた時はさ、ショックだったんだけど驚きすぎて涙もでなかった。頭に

浮かんでくるのは、はるさんの顔ばかり。

遠距離恋愛してる時からさ、思いつきで色んな場所旅して…その度にプロポーズしては断られ。分かってくれていると思うんだけど、

全部本気でしてたんだからね?


この手紙を読んでいるということは俺が行きたかったあの場所でもう一度プロポーズを

して、はるさんからOKの言葉をもらう。

その夢が叶わなかったってことだよね。

ごめんね、はるさん。

48回目のプロポーズは、来世に

持ち越しだ!生まれ変わっても必ず

貴女に会いに行くから。

そしてまた何度でもプロポーズする。

春香、愛してるよ。


西園寺 陵


~~~~~~~~~~~



何度も手紙を読み返す。

間違いなく彼の字だ…

手紙に涙の跡が増える度に、私はまた、

一人になってしまったという現実を突きつけられる。この展望台から飛び降りたら、

私も彼の元へ行けるのだろうか。

この世にもう思い残す事はない…

いっそのこと楽になろう。


持っていた指輪を手にはめると、展望台の

手すりに立ち上がり、手を広げてそのまま

宙に身を委ねる。ジェットコースターの頂上から一気に下降するようなフワッと浮き上がる感覚を覚え、私は目を閉じた。

これで楽になれる…。









"どさっ!"

あれ?ここはどこだ?

ベッドの上からは誰かの寝息が聴こえてくる。慌てて立ち上がり覗きこんでみると

気持ち良さそうにヨダレを垂らし眠っている

彼がいた。


……もぉー!!!夢でよかった…。

彼が熟睡しているのを確認すると、私は

夢の中で、手紙を発見した引き出しを急いで開けに行った。…正夢ってことないよね?



引き出しの中には、私が夢でしていたものと

同じブランドの小さな箱が入っていた。

急いで、手紙らしきものがないかを探す。

………手紙は見当たらない。

はぁ、とりあえずよかった…。

静かに引き出しを閉めると、幸せそうに眠っている彼の上に重なり顔を両手で挟み込む。


「…?ん?、お、重い…。助けてー!

金縛りー!!ってあれ?はるさんじゃない

ですか…。…そこで何をしているの?」


『誰が幽霊だよ!もー!!稜さんのバカ!』


「ん?俺、もしかして、寝ぼけて

はるさんのこと蹴飛ばしたりしました?」


『してない!してないけどバカなの!!』


ぽかーんっとした様子で私のことを

見つめている彼。

土曜で仕事は休みだったので、私は有無を

言わさず予約が空いていた半日人間ドックに彼を放り込むことにした。



「もー、はるさん?この前の健康診断の結果見せましたよね?ほら、やっぱり何も無いでしょ?何があったのかは知らないけど、本当強引極まりないわよ?心配してくれるのは嬉しいんだけどさ?」


よかった、本当によかった。

やっぱり私は彼がいないとダメみたいだ。

こんな恐ろしい夢を見たのは私が彼からの求婚を断り続けている罰なのかもしれない。

そろそろ、プロポーズ受けようか…。

とりあえず指輪を見てしまったことは

彼には黙っていよう。

帰り道の国道を手をしっかり握り歩く。


『稜さん?好きだよ?私がおばあちゃんに

なってもずっと側にいてよね?』


『………………………。』


「ん?はるさん何か言いました?

ここ本当車通り多いよね~?」


私の初めての逆プロポーズは

彼には届いていないようだ。

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