【68】瀑布と東照宮と小芝居と(前)

次の目的地、【日光東照宮】へ向けて車は下りのいろは坂を走っているようだ。登り程のカーブはないがそれでも右や左に揺れるのは、やはり気分が良いものではない。滝で少しすっきりとはしたものの先の見えない悪路に外の景色を眺め続けるしかなかった。

彼は時折"大丈夫?"とは聞いてくるものの、基本は先ほど見た滝の話を楽しそうに続けている。


「はるさん~?華厳の滝凄かったでしょ!ちなみに日本の三大瀑布って知ってる~?

先程みた華厳の滝と、茨城の袋田の滝、和歌山の那智の滝なんですよ!全部一緒に回ろうよね~?」


そういえば滝の爆音の中、何やらプロポーズらしき言葉を発していた彼。

深追いは面倒だったのでしなかったが、今回はどんな台詞でプロポーズをしようとしていたのだろうか?そんな事を思いながら彼の横顔をチラッと見てみる。

真剣に運転はしているものの、口の動きだけは全く止まる気配はない。


本能のままに生きる彼の姿を想い

無性に笑いたくなってきた私は


『あ~楽しい!!!』


と、突然言葉を発した。

きっと彼は自分の滝の話がウケたとでも

思ったのだろう、チラリとこちらを見て


「はるさん!楽しいよね~?

もっと話しちゃおうかな~♪」


と更に上機嫌になっている様子。



『稜さん?東照宮までは、

後どれくらいかかるのかしら?』


「お客さ~ん!東照宮は、この坂を下ればすぐですよ!じきに左側に駐車場とか出て来ますんでしばしお待ちを!お客さんは、どちらからお越しになったんですか?」


滝の話から逃れようと到着予定を聞いてみただけなのに、突然タクシードライバーに変身してしまった稜さん。仕方ない…少しだけ

付き合ってやるとするか…。


『東京からなんです。以前、静岡で見た久能山の東照宮があまりに綺麗で、ここ日光の東照宮もさぞかし綺麗なんだろうな~?と、思いまして。静岡の東照宮は、その時付き合っていた彼と行ったんですけど、色々ありまして別れました。簡単に言えば、傷心旅行って事になりますね…。』


私が話し終えたところで

車は駐車場に到着した。


「お客さん…つ、着き…ました…」


車を止めて何故か声を震わせて

下を向いている彼。


『運転手さんありがとう。いくらですか?』


「お客さん…お金は頂けない!

何故なら涙でメーターが見えません…」


三十秒ほどの沈黙。

運転手さんの様子を観察していると

突然こちらを向き私の両手を掴んできた。


「や~めた!思い付きでふざけてやってたのにはるさん、いきなり傷心旅行とか言ってくるしさ~?はるさんと本当にサヨナラしたら…。とか考えたら本当に泣けてきちゃったよ…はるさん?ずっと一緒だからね?」


『ごめんね?どんな返しでくるのか聞いてみたくなって少し意地悪なこと言っちゃったかな?私も稜さんがいない生活なんて考えられないから!…許してね?』


私の言葉を聞き、"うんうん"と激しく頷いている彼の顔を引き寄せ、仲直りのキスをする。


「よ~し!元気チャージ完了!気を取り直して、【日光東照宮】にいざ出陣じゃ~!」


何とも簡単に切り替えてくれる彼に感謝し

二人は日光東照宮への道を歩み始めた。

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