【67】ドライブと瀑布と求婚と?(後)

今まで付き合ってきた期間には見せたことのない最高潮のテンションを突然見せてくれた

はるさん。そのきっかけが、俺からの甘い

プロポーズとかではなく新幹線が一瞬通りすぎただけというのには驚きだが…

先ほどまでは外を見ながらニヤニヤしていた

彼女も、いろは坂の急な傾斜とヘアピンカーブの連続に少しばかり、疲れ気味な様子。


「はるさん?顔色悪いけど大丈夫?

カーブ毎にさ~いろはにほへと…って

ひらがなの看板あったの気付いた?」


『稜さん…?看板とか見てる余裕は全くありません…まさかこんな悪路が続くとは想像もしていませんでした…。』


「絶叫マシーン大好きはるさんが、ここまでやられるとは!もう少しで中禅寺湖が見えてくるし、窓開けて外の空気吸って気分転換してよね!」


カーブの連続も終盤に差し掛かった頃

曲がった先に、突然現れた湖の姿を見つけ、絞り出すように声をあげる彼女。


『…ねえ…稜さん?湖が見えてきたけど…

あれが中禅寺湖なの…?』


「ピンポーン!あれが中禅寺湖です。今回は素通りしますが大丈夫?すぐ近くに俺の最大の目的地がありますので、そこで少し休憩してから東照宮には行きましょうね?」


彼女からの返事はない。

そろそろ限界のようだ。


湖を左手に眺めながら、車を右折させ

数百メートルほど走行した先に、ようやく

駐車場の看板が見えて来た。

はるさんのことは心配だが、久しぶりのお滝様との対面にワクワクが止まらない…!

何故なら俺は、神社仏閣と同じくらいに

滝が大好きなのである。


「はるさん!着きましたよ【華厳の滝】!

もう滝が流れ落ちる音がするでしょ?マイナスイオンたっぷり浴びて、気分変えようね!」


『…う、うん。』


助手席側に回り込みドアを開けて

はるさんを華麗にエスコート…

ふらつく彼女をしっかりと支え

男らしいところを見てもらうチャンス!

車を降りて徒歩数分で展望台へと到着。


「はるさん!はるさん!ほらあれだよ!!」


『…稜さん?そんな大きな声出さなくても

ちゃんと見えてますよ?なんだっけ?

かげんの滝?』


「ちーがーう!の滝!いや~

かなりテンション上がってましたわ~。ちなみにここの滝は落差が百メートル近くもあるんだよ!さっき通った中禅寺湖の水が流れてきているから、水量も多くて迫力が凄いのよ。エレベーターで滝坪近くまで降りれるけどはるさん、行きたい?」


『ふーん。確かに音も凄いし、マイナスイオン浴び放題って感じだね。滝のお陰で少し復活してきました!でも…乗り物は暫く遠慮したいわね…。景色も綺麗だしここから眺めるだけでも充分満足かな?』


「そうでしょそうでしょ?!はるさんは、やっぱりわかってくれるのね!お滝様のこの華麗なるお姿!ほれぼれしちゃうわ~。」


ヤバい…、久しぶりに言いたくなってきた!

この雄大な滝を前にして、はるさんにプロポーズしないなんて…できない!


「はるさん?あのね?……俺が…

さんの……マイナスイ…………さい!!」


『え?何?今何か言った?マイナスイオンがどうのとか、俺がはるさんの何とか…とか?

音が凄くて聞き取れなかったんだけど…』


「え!!マジで…?もう1度言おうか?」


『…稜さんごめん!今は喉の渇きを一刻も

早く潤したいの。向こうに売店あったよね?マイナスイオンでお肌は潤いましたので。』


滝が発する轟音や、周りの観光客の声を

計算に入れていなかった…何たる不覚!

彼女は売店を目指して既に歩きだしている…


「ちょっ、ちょっと待ってよはるさ~ん!

置いて行かないでよ?運転するの俺だぜ?」


こうして俺の久しぶりのプロポーズ大作戦は

彼女に届くことすらなく終わりを迎えた。

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