【2】空港に海亀?(後)

食事を終えて展望デッキに移動すると明るいうちに下見しておいた場所へと向かい駐機場で離陸を待つ、お目当ての海亀飛行機を彼に見せつけた。夜なので機体の模様がキレイに見えないのが少し残念だが、滑走路の誘導灯や建物から漏れる明かりなどに照らされている姿は夜の海を優雅に漂い、月明かりに照らされているを連想させる。


『はるさん、いや~凄いね!

これは乗りたいです!』


一言感想を告げると、思い出したように知っている飛行機の豆知識を聞いてもいないのに喋りだした彼。クイズ番組大好きな彼の雑学は興味深く感心するところも多いのだが基本的に話が長い為、途中で飽きてしまうことが多々ある。

彼の言葉を無視して1人でウロウロと移動しながら他の飛行機にも目を向けていると話を聞いていないことに気づいたのか、突然彼は私の手を掴み人気ひとけのないほうへ無言で連れていくと、いきなりキスをしてきた。


突然の行動に

『え、何?』と彼に尋ねる。


どうやら彼は、久しぶりに会ったにも関わらず、あまりにも飛行機ばかり見ている私に、自分の存在を思い出してほしかったようだ。元々ヤキモチ妬きだとは思っていたが彼は飛行機にまでヤキモチを妬いてしまった。海亀飛行機の離陸を見届けると彼の顔をみて『ごめんね?』と謝った。

(別に悪いとも思っていなかったが。)


まだまだ名残惜しかったが、一先ず彼の機嫌を回復させるのが先だ!何故なら私には、ある考えが思い浮かんでいたから。

彼に駐車場の場所を聞くと急いで車まで戻る。車内に入り、無言で動き出す準備を始める彼の顔を引き寄せると今度は私から長いキスをする。口下手で"好き"の類いの言葉を滅多に発しない私が手っ取り早く好きを表現できる方法。それがキスなのかもしれない。


彼に気づかれないように離着陸を繰り返す空港を横目で見ながら久方ぶりの彼とのキスを楽しむことにした。これで機嫌が治るといいのだが。



※※※

俺は彼女のキスが好きだ。いつも感情を表に出さない冷静な性格の彼女がしてくれる、予想外に情熱的なキス。彼女とキスを交わした日に、サヨナラしてからする事がある。自分の唇を指で触れるのだ。指先に広がる、彼女とキスを交わした甘い時間。寝る前のわずかな時間に繰り返し唇を触り彼女の甘いキスを思い出す。そんなことをしているなんて彼女には口が裂けても言えないが…。


そんなことを考えながら、車内で突然始まった彼女との甘いキスを楽しんでいると、いきなり唇から引き離されてしまう。長いキスをやめた彼女は、俺の頬を両手で挟むと真面目な顔をして唐突にこう言った。


『稜さん?今から富士山見に行くよ?』


はい?

さっきまで甘いキスをしていた

唇からこんな言葉を聞くことになるとは。

本当に俺の彼女は突然だ。

きっと彼女は今いる場所から富士山までの距離感を持っていないのだろう。

高速道路を使って片道約二時間…。

とりあえず静岡県まで移動して高速道路沿いに無数に存在するファッションホテルにでも泊まればいいか。

明日明後日は二人とも休みだしな。


「富士山ね~!良し行くか!!」

もう一度短いキスをすると車を発進させた。

彼女といる時間は本当に楽しい!

こうして、俺たちは海亀飛行機に別れを告げ唐突に決まった次の目的地へと出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る