【4】ファッションホテルと求婚と(後)

からすの行水を済ませ、お風呂から出てくると、何やら彼女がテーブルの上を片付けてゴソゴソとしている。


「はるさん、お待たせ~。

あ、待ってないとか言わないでよ?」


『…稜さん?私がいつそんなひどい言葉を投げかけたかしら?思っていても言わないわよ~。さ、ここに座って?』


とてもご機嫌な様子なので

"思ってたんかい!"という突っ込みは飲み込んでおくことにしよう。ソファーに座ると、彼女が冷蔵庫に向かい何かを嬉しそうに持ってきた。


「…はるさん、それは何ですか?」


「プレゼントだよー!ネットで見つけて買っておいたの。本当は飛行機見ながら飲みたかったんだけど稜さん、運転しなきゃいけないし我慢してたの!」


袋の中身は、千葉県で作られている地ビールの【九十九里オーシャンビール】と落花生だった。


普段、スーパーやコンビニで売られているプライベートブランドの安い発泡酒などで満足してしまう俺が近県の地ビールをわざわざ探してまで買いに行くという選択肢はない。


「へぇー!飲んだことないや~

はるさんありがとう!早速頂くね!」


蓋を、部屋に置いてある栓抜きで開栓しコップには注がずにそのまま味わうことにした。


俺がビールを美味しそうに飲む様子を

彼女はニコニコと嬉しそうに見ている。


春香が笑ってる顔、笑うと無くなる目。

その笑顔を見れるのなら俺は、彼女の為に何だって出来そうな気がする。ちょっと言い過ぎかもしれないけれど、それくらい、春香のことが好き。

もしも二人が結婚したら…帰ると家にはるさんがいて一緒に食卓を囲みながら、こんな風に晩酌したりできるのかな?というか…帰宅するとはるさんがいるとか天国ですか?

や、ヤバい…言いたくなってきた…。

一人妄想が進み、彼女への想いを押さえきれなくなった俺は、テーブルをずらして隙間を作ると、彼女の正面に回り片膝をついて両手を掴む。


そして…

「…はるさん、俺と結婚しよう?」


こんな場所で突然求婚してみることにした。ちなみに二人が彼氏彼女という立場になってから初めて言うプロポーズの言葉だ。


『…はい?稜さん何を言ってるの?もしかして、もう酔いました?というか、それってお酒を飲みながら、こんなところでいう言葉ですか?ほんまないわよ?』


顔は笑ってはいるものの、凄い勢いで否定の言葉を投げかけてくる彼女。

そんなに断らなくても…

何がいけなかったのだろうか…。


関西出身の彼女は、普段話す時は俺に合わせて標準語を使うことが多いのだが驚きすぎたり感情的になったりすると、どこかにスイッチがあるのだろうか急に関西弁を話し出す。


「ですよね…、でも本気だよ?」


『……、もう少し人としての常識を

色々と考えようか?』


ムードも何もない、勢いだけの俺の初めてのプロポーズはこうして幕をおろした。人として色々ってなんだよ…!!!

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