【静岡県】
【3】ファッションホテルと求婚と(前)
無事に機嫌をなおし、高速道路を走り出した車内では富士山に向かいながら1発目に聴きたい曲は?というお題で盛り上がっていた。二人でいる時は、好きな音楽の話や最近見た海外ドラマやアニメの話をしている。私が選んだ、あるアニメのオープニング曲を微妙な顔で受け入れた彼。私を否定した彼がどんな曲を言ってくるのかとても楽しみであるが…。出だしから颯爽としており物語の始まりを感じさせる爽やかな曲を選んだつもりの私に彼が伝えてきた曲は、二人が好きなバンドの自分らしさとは何かを主張する感じの歌で、旅行気分を全く感じられないものだった。
『え、何故それ?今から富士山だよ?
私のより納得できないし!』
と、すかさず彼の選曲に突っ込む私。
「はるさんはまだまだ、甘いなー!」
突っ込んだ瞬間から彼による歌の歌詞解説が始まる。とにかく話が長いのだ。
彼は私が今まで生きてきた中でも、一番と言っていいほどによく喋る人間だと思う。相槌だけで適当に話を聞き流しながら外の夜景を眺めていると何やら横から視線を感じる…。きっと脇見運転をしているであろう彼の顔は見ずに
『前見て運転して?』
と諭してみる。
「右目で前見て左目ではるさん
見てるから大丈夫なの~♪」
あー言えばこう言う。
彼の為にある言葉だ。
出発する前に、
"はるさんは、距離感がないんだから~!"
などと小言を言われたが夜だということもあるのか、車はあっという間に静岡県の看板を通りすぎ、最寄りの高速道路出口を出ると既に探しておいた今宵の宿へと向かっているようだ。豆知識というわけでもないが、高速道路の出入口付近や新幹線駅、空港などの旅の拠点となり得る場所の周辺にはとにかく無数のファッションホテルが点在している。しかも、無数にあるということで互いに客の奪い合いをしているのだろうか、最近のファッションホテルはとにかく凄い。分かりやすく言うところのラブホテルなのだが、何が凄いのかと言うと無料サービスの種類が豊富なのだ。アメニティには通常のビジネスホテルに置いてあるような、歯ブラシやヘアブラシなどの他に、顔用美容マスクや液体はみがきまであったりする。クシや髪どめゴムなども標準装備だ。クリスマスなどのイベント期間には女性へのプレゼントとして女性なら誰もが知っているであろうブランドのリップグロスが置いてあったりもするから驚きだ。普通のドライヤーの他にも、ヘアアイロンがあったりスチーム式の家庭用エステマシーンの貸出しがあったり…。もちろん、どのホテルにもコスプレ衣裳は標準装備。まぁ借りたことはないけれど。一部屋換算なので、宿泊代も安い上に露天風呂がついているところもあり通常でもお風呂はかなり広い。朝食無料サービスやドリンクサービスなどがあることも考えると本当に安いのだ。巷で、ラブホ女子会なるものが開催されているということにも頷ける。
今宵の宿、二人で一泊一万円のファッションホテルに到着すると早速アメニティをチェックしホテルのサービス案内に目を通す私。彼は到着してすぐに、だだっ広いお風呂にお湯を溜め始めた。その間にタブレットでサービスのビール2杯と女性限定無料スイーツを注文するとソファーに座り彼がくるのを待つ。
「はるさん、もう少しで
お風呂溜まるからねー♪」
と上機嫌に戻ってきた彼を捕まえて隣に座らせると、お疲れ様でしたのキスをした。
"もぉー誘ってるのー?"と悶々とし出した様子の稜さんだったが、タイミングよくサービスビールの到着を知らせるチャイムが鳴り響き二人で笑いあう。
あ、そうだ忘れてた…
稜さんにプレゼントを買ってきたのだ!
サービスビールを飲み干し、お風呂へと行ってしまった今のうちに用意しておこう。
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