【72】太郎とむちゃぶりと求婚と(終)
栃木県から喋り続けて早二時間強。
何度も繰り返される同じような話題に私の
耳もそろそろ限界を迎えようとしていた。
たまに差し出された飲み物を一口含み口内を潤すと、水を得た魚のようにイキイキと喋りを再開する彼。
「はるさん、海にサヨナラをしてここからはひたすらゴールへと山登りの道です!小田原来たのに、小田原城をスルーとかあり得ないよね…ほんと太郎のヤツ!」
『また今度ゆっくり来ればいいでしょ?それよりね、駅伝もそうだけどさ~昔の人って、何でこんな山を徒歩で越えようとしたんだろうね?不思議だわ~。』
突然話し始めた私のほうをチラチラと見ながら、目を輝かせている稜さん。
し、しまった…。あまりにも話を聞きすぎて
心の声が漏れてしまった…。
またエサを与えてしまったようだ…
「それはね…?はるさん!そこに山があるからです!何てね~。あ、俺が人生をかけて登頂しようとしている山って、はるさん知ってるかな?」
ん?何か雲行きが怪しい…
とりあえず適当に返事をしておくか…
『へ~そんな話、初めて聞いたけど…。』
「ですよね!その名は、"春香岳"って言うの!はるさん?二人で人生と言う名の山を共に征服しようぜー!はるさん、結婚して下さい!」
は、反応しずらいわ!
とりあえずスルーしとくか…
『…稜さん?小涌谷過ぎたし、次は大涌谷よね?あの黒い茹で卵で有名な。』
「そうだけど、それがどうしたの?」
『何回断られても、空気を読まずに頭を冷やさない稜さん。逆に蒸気で蒸してみたら?
ってふと思ったの~』
「いやーはるさん!それは命に関わります!それより、返事はいただける?」
"♪♪♪♪♪♪♪♪~"
『…あ、稜さんのスマホ鳴ってますよ!
きっと太郎さんね~?』
路肩に車を停めて、プリプリと怒りながら
電話をしている彼。
た、助かった。
『…太郎さん、何て言ってたの?』
「俺の居場所を当ててみろ!お前になら
わかるはずだ!だってさー。」
『信頼されてるのね。稜さんわかるの?』
「ふっふっふ…箱根=駅伝。箱根駅伝の往路のゴールに決まってる!俺が箱根マニアなの、太郎も知ってるしね。あいつも駅伝好きだしさ~。さて、信号を右に曲がると芦ノ湖のゴールだよ、はるさん!」
二人の乗った車は、稜さんの予想地に到着。
車を下り辺りを見回すと、太郎さん夏子さんがニコニコとしながら両手を振り待ち構えていた。
まるで駅伝のゴールさながらの光景だ。
「良く来たな~!稜とはるちゃん。長旅ご苦労であった!…ん?稜どうした?いつものお前だと俺に文句でも言いながら、首を絞めてくるはずだが?」
下を向き、あまり覇気のない様子の稜さんに
構わず絡みだす太郎さん。
「あ~太郎か?ふと、ここに着く前の出来事を思い出したんだよ。ここは俺の人生の終着点かも知れないな……。」
「はるちゃんも、ロングドライブお疲れ様でした!あ、もしかして稜の様子からして、またいつもの"ヤツ"ですか?」
太郎さんの言葉に"はははっ"と
愛想笑いを返す。
『太郎さん、夏子さん。お久しぶりです。
稜さんいつもの"ヤツ"で落ち込んでますけど、気にしないでくださいね?心配しなくても、すぐに太郎さんに噛みつきますよ~』
私の言葉を聞き、我に還った様子の稜さんは
三人の予想通りの行動を始める。
本当に単純な人間だ…
「あ!なっちゃん相変わらず可愛いね~!元気だった?というか…太郎!お前何様だ!」
笑いながら逃げている太郎さんを
本気で追いかける稜さん。
うん、楽しそうだからいいか。
私と夏子さんは、二人を無視して近くにある売店に立ち寄りコーヒーを飲みながら今後の予定を決めることにした。
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