【50】鳥居と独り舞台と求婚と(終)
『稜さん?まだどこか行きますか?大阪戻るし、時間的に次が最後だよね?』
「そうだね…よし!駅に向かいながら、
行ける最高の場所を思い付いた!」
狙いを定めながら無数に走り回るタクシーを捕まえて次の行き先へと向かう。
「運転手さん、東寺までお願いします!」
『【東寺】?そこが最後の目的地で
いいんですか?稜さん。』
「はるさん?俺ね、京都に数ある神社仏閣で一番好きな所は?って質問されたらね、迷わず【東寺】って答えるくらい好きなのよ!」
『そうなんだ~。どうしてなの?』
そう言って彼女は、瞬時に"しまった"!
というような表情をしたが時すでに遅し。
車内はたちまち俺の独り舞台へと変化する。
東寺は本当に素晴らしい場所なのだ。久しぶりにあの方達に会えると思うと楽しみで仕方がない。彼女の手を触りすぎて、少し気持ち悪いと思われていたことは些かショックではあったが、鳥居も潜ったし次なる展開を期待しよう!
車外に出て深く息を吸うと早速お線香のいい香りが漂ってくる。
拝観料を支払い、中へ進むと早速第一の見所である、見事な五重の塔が迎えてくれた。
「はるさん!立派な五重の塔でしょ~?
朝、京都駅に着いた時にね東本願寺の反対側に見えていた五重の塔がこれなの!まさに《THE・京都!》って雰囲気だよね!」
『確かに、五重の塔って言えばこれのような感じしますね~。何とも渋い佇まい。』
「次の金堂も素晴らしいから期待しててよね!ちなみに東寺は国宝の宝庫でね、金堂も国宝だし、講堂の中の仏像はほとんど国宝に指定されているんだよ~!」
金堂の中へ入り、静かに仏像を眺める。
ここにいる仏様も立派でいいのだが、次が
一番の目的である講堂の中の、仏像群だ!
久々の再会に興奮気味な俺は、一つ深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「はるさん…遂に来ましたよ講堂!
静かにするから、ゆっくり見てよね!」
『了解~。稜さんの好きな仏様達をゆっくり拝見させてもらいますね~。』
彼女と離れ、暫し一人で散策を開始する。
入口に入ってすぐの所に俺の好きな仏像の
第三位である、梵天像が現れた。突っ込みどころの多いその像は、何故かガチョウに乗っており他の仏像に比べてぽっちゃりとした
体型をしているところが気に入っている。
顔は優しそうなイケメンなのに何故その体型?俺は影でこう呼んでいる…。
ぽっちゃり王子!!
それにしても何故ゆえガチョウなのだろうか。カラスでもなく、白鳥でもなく…。
その謎を調べることはしないのだけど。
好きな仏像、第二位である隆三世明王は、
過去現在未来の世界で三つの煩悩を退治してくれるという名前の語源から煩悩除去のご利益があるらしい。煩悩の塊である俺にはぴったりの仏様だ。人らしきものを踏みつけているが、実は踏みつけられているのは別教の神というから恐ろしい…。
数十体の仏様達に挨拶をし、最後にきたのは
稜さんランキング第一位のあのお方…。
そう、言わずとしれた"帝釈天"である!
一時期テレビや雑誌などでも
"イケメンな仏像"として持て囃されたこともある仏像界のトップスターなのだ!
仏像が作られた時代から日本に存在していたのか?と考えざるを得ないほど精巧に彫られた象のような動物。その上に乱暴に座り、
仏像なのに少し不機嫌そうな顔をしている
お姿…まさに不機嫌王子!
何度も来ているが、ここの仏像達はどれも本当にカッコいい!しばらくぶりの仏像達とのご対面をじっくり済ませると講堂を出て彼女に感想を聞いてみることにした。
「はるさん、どうでしたか?俺の一番
好きなお寺の仏像達は?」
『稜さんが好きな理由が、なんとなくわかったよ~!これだけの仏像が並んでいるの見ることって滅多にないし、迫力が凄かった!』
「でしょでしょ!カッコいいもんな~!ここの仏像達はさ~仏像界のアイドル達ですよ!
特に、象に乗ってる帝釈天なんかさ~ファンクラブありそうなくらいカッコいいもん!」
『あ~ぁ、せっかく素敵なの見せてもらえたのに、今の稜さんの言葉で台無しだわね~。
さぁ、京都はこれで気が済みましたよね?そろそろ大阪戻りますよ~?』
「ちょちょっとー!はるさん?東寺に最後のお別れをさせてくださいよ!」
"アディオ~ス"
はい、スッキリした!!
振り返ってみると彼女は待つこともせずに、距離を置いて歩きだしている。仲間と思われたくないのだろうな。
もう、可愛いやつめ!手を繋ぎたい!!
やはり俺の煩悩は少しのお参りくらいでは
取りきれないらしい…!
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