第55話

 丁度その時メイン料理が搬ばれて来た。セットされるまで窓の外に目を移す。いつの間にか濃紺の帷が街を包み込み、深く静寂な闇を飾るように幾つもの灯りが燈っていた。ふと、ここから見える夜の街に亮太がタバコを咥えながら歩いているような気がした。

「どうかした?」と盛田主査。

「いえ、夜景がとても素適だったのでつい見とれてました」

「そう。ここからの夜景は結構奇麗だけど、外国の夜景ほどロマンチックじゃないね。日本の都会の夜景は白い」

「そうなんですか? 私はまだ見たことがないのでわかりませんが……」

「篠崎さんはまだ若いから、外国に行くチャンスはこれから何度もあるから心配しなくていいよ。でも行きことがあったら、気をつけて見るといいよ。女性ならきっと日本に帰りたくなくなるから」

「うふふ、そんなこと聞いたら行ってみたくなりました」

 私は本当に行ってみたくなった。ひょっとしてすべてを棄てることができるかもしれない――ドラマのヒロインのように目に泪を浮かべ、悲しみに耐える姿を亮太に見てもらいたいと思った。

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