第5話
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私立の女子高を卒業してアパレル産業の会社に就職した私だったが、変化のない毎日に嫌気が差し、一年も経たないうちに会社を辞めてしまった。その時は、親からは堪え性がない娘だ、こんなふうに育てた覚えはない、と一旦は見放されかけた。しかしそれもその場だけのことで、やがて
私には前々からやってみたいと思うことがあった。建築デザイナーに憧れていた。私は、父親に前から目をつけていた専門学校のパンフレットを見せた。こういうことは母親では無理だと思って最初に父親に話した。半端じゃない授業料に目を瞠った父親だったが、理解してもらえるように自分の思いの丈を話すと、ようやくのようにしてわかってもらうことができた。その時の私は必死だった。どう逆立ちしてもそんな纏まったお金を出せるはずがなかったからだ。
親の援助もあって、何とか『A・CADスクール』に入校し、建築CADのコースを一年かけて習得すると、今度は上級コースに進みたくなって、もう一度親に援助を求めた。
無事に全課程が修了すると、いよいよ次はこれまで習得した技術を発揮する場所を捜さなければならない。都合のいいことに、そのスクールは人材派遣会社を併設していたので、すぐさま手続きを済ませた。あとは会社からの連絡を待つばかりになっていた。すでに頭の中にはパソコンに向かって高収入を得る自分の姿が、スクリーンを観るように映っていた。
しかし世間はそれほど甘くはなかった。胸をわくわくさせながら毎日電話を待つ。かかってもいないスマホを何度も見る。鳴ってもいない家電に耳を傾けたりもした。
会社から電話があったのは一週間してからだった。喜び勇んで電話に出たものの、提示された条件は、高収入にはほど遠いものがあった。勿論少しでも早く自分の習得したものを確かめたかったのもあるが、これまで聞かされてきた収入と比較すると、すんなりとは喜べないものがあったのは事実。
あとからわかったことだが、企業として求めるのは即戦力としての人材でしかない。スクールを優秀といわれる成績で修了した自分には形の見えない矜持を抱えていた。しかし、社会ではそんな爪の垢のような個人の思いなどまったく通用しない。そう自分で感ずるようになったのは、再三の打診のたびに聞かされる収入条件で思い知らされた。ひとつとして好条件のものはない。
しかし、このまま拒否し続け、受け入れることをしなければ一歩も前に進むことができないと思った私は、思い切って面接に出かけることにした。人材派遣といっても人身売買ではないので、雇用する側と雇用される側の合意が必要となるために、一度先方に出向いて双方が顔合わせする手順が必要となる。
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