第4話 2

 電車二本ぐらい待ったところで亮太が姿を現した。背が高いのですぐに目についた。ロングのヘヤスタイルに切れ長の目は私の心を焦らせる。私には勿体ないくらいカッコいい。亮太は、知り合う前から『Ryo』というペンネームで小説を書いている。小説家になるのが夢で、コンビニでバイトをしながらコツコツと自分の夢に向かって歩み続けている。私よりひとつ歳が上だった。

 そもそも亮太と知り合ったのは、仕事の帰りに駒込の駅前で私の提げたバッグが彼の手に当ったのが最初だった。しばらくして偶然にマクドナルドで隣り合わせの席になった。亮太のほうから声をかけてきたのだが、まんざら嫌な気はしなかった。それからいままで何となく恋愛関係が続いている。

「この間は、ごめんね? 亮くんがわるいわけじゃないのに……」

「いいよ。そんなの気にしてないし。それより、バイト代入ったから何か奢るよ」

「ううん、きょうは私がご馳走するわ。この前の埋め合わせと、亮くんに聞いてもらいたい話もあるし」

「聞いてもらいたい話?」

「ええ、あとでゆっくりと話すから、とりあえず行き先を決めようよ」

 私は彼の腕にすがりながら顔を覗き込む。

「俺は別に居酒屋でもいいんだ。右花はお洒落な店がいいんだろ?」

 亮太は私に気を遣ってくれている。

「ううん、そんなことないよ。それにきょうは亮くんにお任せだから、居酒屋さんでいいんだよ」

 私たちは駒込の駅近くで居酒屋に入ったことがなく、ぶらぶらと歩きながら店を捜した。

 あかね色だった空が菫色からコバルト色に移ろうとしている。

 街が変わりかけている。少しずつ化粧をしはじめた。これまでの鼻白んだ部分を闇に隠し、まるでこれから晩餐会の客でも出迎えるように着飾っている。

 やっとのことで気に入った店構えの居酒屋を見つけた。店の中に入ると、すでにサラリーマンが何組か大きな声を出していた。店員に促されてカウンターの隅に席をとる。

 亮太は生ビール、私はレモン酎ハイを頼むと、お決まりのように乾杯を済ませた。亮太はおいしそうにビールを流し込むと、タバコの函を取り出して火を点けた。

「それで、聞いてもらいたい話って?」

「うん――」

 考えてみれば別に隠す必要のないことなのだが、なぜか亮太にだけは言い辛らかった。私はレモン酎ハイをひと口飲んでから思い切って話し出した。

「……じつは、これまで行ってた派遣先の建築会社、クビになっちゃった」

 私は勤めて明るく言った。

「えッ! どうして?」亮太は自分のことのように目を吊り上げる。

「私も最初聞いた時は一瞬耳を疑ったわ。でも、派遣社員って、所詮こういう宿命の下にあるから、仕方ないって言えば仕方ないんだけれど、あまりにも一方的な契約解除に肚わたが煮え繰り返って、それがあって亮くんにあんな態度をとってしまったというわけ」

 私は、亮太の目を見られないまま仔細に経緯を話した。

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