第10話
夕方近くになって、ふたりでアパートから歩いて十分ほどのスーパーに出かけることにした。
「原チャリで行こう。右花、後ろに乗れよ」
亮太はマジ顔になって言っている。
「ヤバイって。免許なくなっちゃうよ」
「大丈夫だよ。そんなことぐらいで免許取り上げられた日にゃあ、日本中誰も免許取得者がいなくなってしまうだろ。それに、裏道を通って行けば絶対ポリになんて見つからないって」
亮太は自信満々の顔を私のほうに向ける。
「そういうことじゃなくて、二人乗りしてて万が一事故でも起こしたら取り返しがつかないでしょ」
私はその時ひとりで歩いて行けばいいというモードになっていた。言い出したら利かない亮太にはこれ以上言っても無駄だ。気まずくなるのが目に見えている。
「じゃあ、亮くん先に行ってて。私歩いて行くから……」
「だめじゃん、別々に行ったんじゃあ。一緒に行かないとさ」
亮太は、うわ言のようなわけのわからない言葉を呟く。
「だって帰りは荷物があるから、亮くんが原チャリで搬んでくれたら、私としては大助かりだよ」
「そうだな。じゃあ、一足先にスーパーの入り口で待ってるぜ」
亮太はキーを廻してエンジンをかけると、手を振りながら排気音を残して走り去って行った。
私がスーパーの前まで行くと、亮太はタバコを喫いながら待っていた。
「ごめんね」
「うん」
店内に入ってカゴを手にした時、
「いまの時間って中途半端なんじゃないのか?」と小首を傾いで言った。
「えッ、何で?」
「だって、もう少し遅い時間だったら、タイムサービスって言うか、売り切りって言うか、生鮮食料品は半額になるじゃん」
「そう言えばそうね――亮くん賢いわ。でもあれって七時近くじゃなかったっけ? それまで待ってたら晩ご飯が遅くなっちゃうからいいよ」
「まあな。俺がスーパーで買い物する時は、すぐ食べる時か冷蔵庫に保存して次の日に食べる時くらいだから。でもあれはあれでずいぶんと生活費が助かる」
亮太は笑いながら私を見た。私はその時野菜コーナーでレタスを択んでいた。
「サラダ拵えようと思うんだけど、亮くんどんなのがいい?」
「サラダ? うーん、何でもいいよ」
「じゃあ、カリカリ・ベーコンサラダでもいい?」
「ああ、問題ない。俺さあ、誕生日のワイン捜して来るよ。右花は赤派それとも白派?」
亮太は他のお客とぶつかりそうになりながら振り向き様に訊いた。
「どっちでもいいけど、きょうは赤ワインがいいな」
私は、周りを気にせずについ大きな声で答えてしまった。
ひとりになった私は、それからトマト、ソーセージ、鶏の唐揚げ、コーンの缶詰、マヨネーズ、太さ1.6ミリのパスタ一袋、ボロネーゼソースを買い物カゴに放り込む。買い物が愉しくて仕方ない。いつもは自分のために食材を捜して廻るのだが、きょうは違う。私の誕生日には違いないが自分だけではなく、亮太のために、亮太と一緒に誕生日を過ごせる。
ひと通り買い物を済ませると、ワインコーナーに亮太の姿を捜す。亮太の姿が見当たらない。小首を傾げながらあっちこっち捜し、チーズコーナーでようやく亮太を見つけた。亮太はすでにビニール袋を提げていた。あの中には赤ワインが入ってるに違いない。私は目立つように大きく手を振って亮太に近寄った。
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