第23話
そんなことを考えているうちに、知らず知らずと明かりの届かない深い谷間に陥ちて行った。
目が醒めたら九時を大きく過ぎていた。昨夜蒲団に潜り込んだ時には、明日は久しぶりに早起きをして農作業を手伝ってやろうと思ったのだが、体内時計がいままで通りに時を刻んだために気がついたらこんな時間になってしまっていた。
カーテンを開け、蒲団を畳むと、わざと大きな音を立てながら階段を降りた。台所に顔を出すと、気後れした声で母の背中に言った。
「おはよう」
「やっと起きたかい、いま朝ご飯の用意してあげるから、早く顔を洗って来な」
「うん」
温かいご飯に味噌汁。アジの干物と野菜の煮物が並べられた。
「お母さん、何か手伝うことある?」
一宿一飯の恩義を果たすためにも何か役立とうと思って訊いた。
「ああ、手伝ってくれるんなら、野菜を洗わなきゃならんから、それでも頼もうかな」
と母が言った時、スマホが鳴った。
「はい、篠崎です。いつもお世話になっています。いえ、別に。いま実家にいるものですから……。わかりました、じゃあ、明後日の午前十時にオフィスのほうにお邪魔します」
派遣会社からの電話だった。
「仕事の電話なの?」と母が訊く。
「そう、仕事が決まりそうだから、明後日会社に顔を出せって」
「よかったね」何気なく母は言ったつもりなのだろうけれど、私の心臓はことりと音を立てた。ひょっとしたら母はすべてを承知していたのかもしれないと推した。
午前中は野菜洗いに専念し、昼食に戻った父たちと一緒に食事を済ませたあと、家の周りの掃除し、昨日と同じように犬丸の散歩に出かける。自分の任された仕事がないからなのであろう、東京で生活している時と違って、時間の流れがゆったりとしている。いっそのことここに戻って来ようかという思いが脳裡を掠めたが、私は慌ててそれを打ち消した。私がこの家を空けているうちに
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