第35話

「『白い夏の向こう』という高校生の恋愛小説で、好きな彼がバイクの事故で片足を切断する。それを知った彼女が立ち直れないくらいのショックを受けるんだけど、散々悩んだ末、いま彼のちからになれるのは自分しかいないと思い、献身的に心の支えになろうとする、そんな内容」

「何か面白そう。それって新作なの?」

「違う。あそこに新作は載せない。これまで文学賞に応募してだめだったのを書き直して載せている。いまその小説のサイトが小説大賞を企画してて、それにエントリーしたのがこの作品。前回は私小説的な作品を応募したんだけど、ああいったサイトは読んでくれる年代層が比較的若い人が多いから、受けがよくなかった。やはりあの年齢層が要求してるのは恋愛小説かファンタジーなんだな。だから今回は読者に合わせて書き直したよ」

 亮太はタバコを喫うのも忘れ、生き生きとした顔で話す。

「携帯小説的なのって最近よく耳にするけど、書いてる人はたくさんいるの?」

「ああ、星の数ほどいるよ。メモ帖代わりに思いついたことを書いてるのもいれば、ハイレベルの本格的な小説を書いているのもいる。俺も最近になってやっと気がついたんだけど、気をつけてようく見ると、サイトの中に幾つものグループができているのがわかったんだ」

 亮太はひと息つくようにタバコを咥えた。

「どうやってグループができるの?」

 私は入り口しか覗いたことがないのでまったく想像がつかない。頭の中にけして紡がれることのない糢糊とした塊りとしてあるだけに余計と興味が湧いた。

「まず作品を読んで感想を遺す。すると読まれたほうはそのお返しに読みに行って感想を遺す。それが発端となって作品の話に限らず趣味だとか好きなタレント、好きな食べ物にまで言及するようになるんだ。まあ言ってみればメル友だな。ところが友だちの輪が広がってゆく間に篩いにかけられて気がつくと同じレベルの仲間が集まっているというわけだ」

 亮太の説明を聞いて私にも少しわかってきた。

 高校生の時に同じようなことがあったのを思い出した。修学旅行とか文化祭のあとなんかに、グループに新しくメンバーが加わるのだが、いつの間にか別のグループに鞍替えしていたことが何度かあった。別に爪弾きをした覚えがないのにもかかわらず自然と離れて行った。空気が肌に合わなかったのだと私は思ってる。

「そうなんだ。きっと見えない電波が行き交ってるんだね」

「っていうか、その先があって、仲間ができるのはいいんだけど、あまりに友だちを作り過ぎて、メールの返事を書くのに何時間もかかるようになり、下手をすると小説のサイトでありながら作品を書く暇がないといったことも起きてくる。俺みたいに仕事を持ってる人間なら尚更のことだ」

 亮太の話にはどこか説得力があった。それに引き込まれて私は更に突っ込んで訊いた。

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