第27話

 社内を見学させてもらったあと、採用か否かは追って連絡をするという返事を貰って会社を出た。ビルを出たところで担当者と別れる。面接はものの一時間ほどで終った。私は悩んだ。仕事のことではなく、きょうのスケジュ―ルのことだ。まるで莢から跳び出したえんどう豆のように放り出されてしまった私は、白くなった頭でくらくらするくらい戸惑う。

 お昼には少し早いし、別に遊びに行きたいところもない。万が一あったとしてもひとりでなんか行きたくなかった。

 品川駅までそんなことを考えながら歩き、券売機の前で財布を出すついでに何となくスマホを覗いてみると、メールが一通届いているのに気がついた。葉月からだった。隅に寄ってメールを開く。相変わらず派手なデコメールだ。また暇潰しに寄越したのだろうと思いながら読んでいくと、どうやらオフだから夕飯を一緒に食べようという誘いだった。

 私は早速OKメールを送り返す。すぐに葉月から電話がかかってきた。周りに気遣いながら電話に出ると、何も悩むことがないのかと思うくらい明るい声が耳朶に飛び込んできた。

「オハヨ、葉月だよーッ。右花いま何やってる? 仕事? それともデートの最中?」

「そんなんじゃないよォ。いま新しい派遣先の面接が済んで家に帰る途中」

「あたしさァ、おいしい鉄板焼きの店を見つけたんだ、恵比寿で」

「別に予定ないからいいんだけど、いまリクルートスタイルだから、一旦家に戻って着替えする。だってこの格好じゃお互いにリラックスできないでしょ」

「そだね。じゃあさァ、少し早目に合おうか、ゆっくりと話もしたいしさ」

「いいよ。で、何時にどこに行ったらいい?」

「四時くらいでも平気?」

「いいよ」

「じゃあ、四時に恵比寿の西口」

「わかったわ。四時ね」

 電話を切った私はまだ時間があるにもかかわらず、急ぐようにしてアパートに戻った。それには理由があった。一時も早く真空パックのチャーシュウみたいな、ギュウギュウ詰めから解放されたかったのだ。

 ベッドルームに入って真っ先にしたかったのは、いつ破裂してもおかしくないスカートを脱ぐことだった。スカートの次に上着を脱ぎ捨て、そのまま大の字になってベッドに倒れ込む。思わず大きくて長い息を天井に向けて吐く。頭の先から徐々に細胞が蘇生されていくように思えるほどの開放感にくらくらと揺れた。

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