第15話

 ―――

 朝方、耳元で微かに何か聞こえたような気がして朦朧としながら、確か亮太がいたはずだ、と手探りで求める。亮太の腕に行き当った。仔犬のお腹のように腕の筋肉が息づいている。その筋肉が大きく動いた瞬間、掌の感触と同時にショーツの下に潜り込んできた。

 亮太の掌が肌に触れた時点で条件反射のように躰を開かせる。しかし掌は花蕾に届く前にぷいと離れ、躰の輪郭を確かめながらゆっくりと胸元に昇って来ている。圧し上げながら乳房を軽く掴み、親指ですでにコルクのようになった乳首を弾く。ピクリと躰が反応した。

 私は細く目を開いて亮太であることを確認すると、安心して仄明るくて深い闇の中に融け込んでしまいたくなって、亮太の背中に廻した手にちからを込めた。

 亮太はTシャツをたくし上げると、唇を乳房にあてて赤んぼのように吸った。胸に気を取られているうちに亮太の右手は再びショーツの中を徘徊しはじめる。あまり密ではない恥毛はすでにしっとりとしていて、私の胡桃は亮太の指先を容易に受け入れた。

 腹を空かせた蛇は、獲物を見つけるまでにそれほど時間というものを必要としなかった。

 寝起きで鈍っていた感覚は、次第に研ぎ澄まされて行った。膝頭から気体のようにして脱け出して行く気力を引き留めることもできなくなった私は、思わず亮太の胸に顔を埋めて痺れで麻痺した躰が醒めるのを待った。

 そっと亮太の股間に手を伸ばす。そこには掌を弾く勢いで鋼のようになったペニスが、何かに照準を合わせていた。私は欲しくなって躰を起こすと、躊躇いもなく屹立した彼に唇を被せた。マウスで自由線を描くようにゆっくりと舌先を時計回りに動かす。ピクピクと小動物を想わせる脈動が伝わる。

 亮太のを手にしたまま上目遣いで彼の顔を覗く。カーテンの隙間から洩れた朝の光りを受けた恍惚の顔は、別の場所に身を移してしまっているように見えた。私は続ける。亮太が尽きるまで続けようとしたその時、むっくりと躰を起こした亮太が私の腕を取って股間から引き離した。次のプロセスがわかっている私は、四つんばいになって少しお尻を突き出す。亮太の好む体位だった。最初の頃はすごく恥かしくて、思わず枕に顔を埋めたこともあったが、いまになっては亮太の思い通りにしてあげたいと思っているので、窄んだマーガレットも胡桃も朝の光りの中で恥じらいながら息づいていることだろう。

 亮太は胡桃を押し開くようにしたあと、両手で私の腰を掴み、荒々しく私の中に入ってきた。快感とは違う波が押し寄せたために思わず声を洩らしてしまった。

 亮太は私から離れたあと、満足げな顔を見せながら横に並んだ。

「嫌、私こんなセックスしたくない。もっと優しくしてくれないんだったら、もう亮くんとはセックスしない」

「ごめん。わるかったついちからが入ってしまった。本当にごめん」

「本当に?」

「ああ」亮太は半分躰を起こして私を覗き込む。

「だったら、はじめからもう一度……」

「OK。今度は愛を込めて右花を天国に導くからな」

 亮太は羽根のようなキスからはじめると、今度は砂糖細工でも触るように私の躰中に指を這わせた。それに応えるように何度も満ち潮を迎えた私は、それだけで満足することなく、いま一度亮太を受け入れた。結局ふたりは朝方目を醒ましてから、昼近くまで食事を摂ることもなくただひたすらに抱き合い、放出し、虚脱し、確信し、そして安堵した。

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