第8話 3

 土曜日――きょうは私の二十三歳の誕生日。

 九時過ぎに目を醒ますと、いつもの土曜日とはどことなく違った空気が横溢しているのを感じた。亮太が来るせいだろうか――。

 昼過ぎになって原チャリの音が外でした。あの音は亮太だ。私は慌てて部屋の中を見廻す。一応掃除は済ませたはずだがやり忘れがないかやはり気になった。

 ノックされると、待ち侘びていた私は小走りでドアを開けた。思った通り廊下にはいつものジーンズに白のトレーナー姿で、目を細めて唇を結び、後ろ手にしたまま亮太が直立していた。

「何してんの、早く部屋に入ったら?」

 私は部屋の中から亮太に言う。

「誕生日おめでとう。これ……」

 微笑しながら亮太が後ろの手を前に廻すと、その左の手には透明のセロファンでラップされた真紅のバラの花が一輪、右手には十センチ角ほどのグリーンの包装紙に包まれた箱が載っていた。

「嘘ォ―。ほんとに? ありがとう」

 そう言いながら私がプレゼントを受け取ると、亮太がぺこりと頭を下げて立ち去ろうとした。

「あッ、何で? 上がらないの?」

「へへっ、嘘だぴょーん。ちょっと右花をからかっただけだよ」

 亮太はプレゼントを持って来た照れ隠しにそんなおどけた行動を見せたに違いない。だが、正直なところわたし的には狼狽した。本当に亮太が帰ってしまうと思ったからだ。せっかく嬉しかった気持が瞬く間に萎んでどこかに消えてしまった。

「ん、もう。亮くんのいじわる!」

 拗ねた言葉をスニーカーを脱ぐ亮太の背中に投げつけた。

 気分を取り直し早速一輪挿しにまだ開ききってないバラの花を活けると、リビングのガラステーブルの上に飾った。

「可愛いわ。でもわざわざ花屋さんで買って来たくれたんだよね」

「ああ。ちょっと格好わるかったけど、そこは右花のために我慢してさ。俺知らなかったけど、バラって冷蔵庫に入れて売ってるんだ」

 リビングの床に腰を降ろしてタバコを喫いながらの亮太。

「そう、バラの花はデリケートだから、外に出しとくとすぐにいたんじゃうの。で、こっちの箱は何が入ってる?」

「開けてみたら?」と亮太が顎で言う。

 急いで包装紙を外すと、箱の中からは、直径10センチほどのガラスの器に入った黄色いキャンドルが出てきた。

「うわあ、キャンドルだ。サンキュ、亮くん」

 嬉しくて思わず亮太のおでこにキスをした。

 私はキャンドルコレクターで、これまでにずいぶんと色んなキャンドルを収集してきた。

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