第25話

 部屋に帰っても、外の天気がこんなだからか何もする気になれず、ただぼんやりと部屋の中を眺めるばかりだった。ふと亮太が誕生日のプレゼントにくれたバラの花に目が行く。葉のほうは少し精彩を欠いているが、真紅の花は存在を誇示するようにビロードのような花びらをひろげていた。このままずっと咲き続けて欲しいと思った私は、弾かれるように立ち上がると、流しに行って花瓶の水を取り替えた。新鮮さを与えられたバラの花は微笑みながら私にお礼を言っているようだった。

 亮太からの電話を待ちながらベッドで横になりながらCDを聴いているうちに寝入ってしまい、枕元に置いておいたスマホの音で目を醒ました。亮太からだった。

「俺、電話もらったみたいだけど」

「うん、昨日実家から帰って来た。亮太に会いたくて電話した。きょう会えないかな?」

「きょうは予定が入ってるからだめだ。今度の土曜日じゃだめか?」

「予定があるんならしょうがないね。いいよ土曜日で。それまで我慢する」

「なに大袈裟なこと言ってるんだよ。土曜日って明後日じゃないか。はっきりとした時間は言えないから電話してから行くよ」

「わかったわ」

 電話を切って時計を見ると、五時半だった。気持悪くなるくらいにお腹が空いているのに気がついた。考えてみると朝食べたっきりでいままで何も口にしていない。冷蔵庫の冷凍室からラップに包んだご飯を取り出し、電子レンジで戻してから残り物の野菜とハムで炒飯を拵え、インスタントの玉子スープで夕食にした。空腹だったせいかやたらおいしかった。

 早目にベッドに入ったせいで朝が早かった。カーテンを開けると昨日の雨はすっかり上がっていたが、まだ陽は昇りきっていない。つい窓ガラス越しに空を見上げてしまった。

 余裕を持って朝食を済ませ、面接に着て行く服を吟味する。別に正装をするまでもないが、さすがにジーンズとトレーナーでは印象がよくないと思い、無難なダークスーツを択んだ。この前の時はそうでもなかったのに、しばらく間があったからか、スカートのホックがなかなか留まらなくて、背中にくっつくくらいにお腹を凹めてやっと何とか穿くことができた。ファスナーを締めてお腹を元に戻すと、堰き止められていた血液が一気に流れ出し、そのとたん軽い貧血が起ると同時に吐き気に見舞われた。

 気になって躰を斜めにしてお尻のあたりをチェックする。パンティラインが丸見えだった。止めたかったが他に着ていくそれらしいスーツがなく、我慢して部屋を出た。

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