第2話

 平日のデパートは想っていたよりも買い物客の姿は少なかった。ウインドーショピングなら人出の多いほうが見やすいというのがあるけれど、目的がある時には空いていたほうが好都合。じっくり品定めができるから。

 私は毎年誕生日がくると記念にひとつだけ欲しい物を買うことにしている。今年の自分へのプレゼントはすでに決めてある。今年で二十三才になる私。いま、可愛いのではなく、ちょっと大人の雰囲気のある下着が欲しいと思っている。それも上下お揃いのやつ。

 正直言って私は躰にはまるで自信がない。水を飲んだだけでも太ると言うのは私のためにあるような言葉だと思うくらい。どちらかと言えば坂道があったら転がったほうが早い体形がメチャ悩みの種。体重が横に増えるたびに目を被い、一大決心をしてダイエットに挑むのだが、どれひとつとして成功を納めた試しがなかった。

 なかでもいちばんの悩みは胸。子供の時から発育してないと思うほど貧弱で、余計な部分にばかり脂肪がついて、肝心なところにはこれっぽっちもついてくれない。でもお洒落な下着を身に着けると、不思議とコンプレックスを忘れることができた。

 亮太とのはじめての時も勝負下着を身に着け、勇気を出して臨んだために何とか凌ぐことができたのだが、その時の私は顔から火が立ち上るほど恥かしかった。いまでは亮太以外に見せることはないので安心と言えば安心なのだが、それでも時々思い出したように悩むことがある。

 私の好きな色はバイオレット。店員さんに小さな声でサイズを伝えると、さも感心のないといった対応で商品を見せてくれた。カップに納まるとか納まらないとかいう問題のない私は、情けないことにフィッティングルームに入る必要がない。手触りと値札で買うのを決めた。悩むことなく購入し、紙袋を提げて店を出る。きょうはこれだけじゃなく、ストレス発散のための大人買いがしたくてブラブラと店内を見て廻ったが、触手が動くほどの物が見当たらず、結局他にジーンズを一本買っただけとなった。

 スマホの時計を見ると昼の一時を過ぎていたので、目についたフロアーの隅にあるパスタ店に入り、菜の花とパンチェッタのパスタを食べたあと何かに急かされるようにしてデパートを出た。

 春の陽射しは眩めくほどに煌めき、夏のそれとは違ったどこかまったりとしたものを感じた。誘われるように歩き、信号で足を停めた時、ふと足元に目を遣ると、薄紅色の桜の花びらが吹き溜まっていた。どこから流れてきたのだろうと首を巡らせたが、それらしき桜の樹はどこにも見当らなかった。

 信号が青に変わって道路の中程に差しかかった時、ふいにアルタに行ってみたくなった。

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