霧と刀と終わりの序章

第51話

……何か、長らく出番が無くて、こうして喋るのがとても久しぶりな気分なのだけれども。

怨刑無限刀、錏毘との戦いから、半月ほど。

僕と蛟は山の中にいた。

静かに、当然動くこともなくそこにたたずむ木々達。

錏毘のバイバに囲まれた時より幾分ましだが、静かに、何も言わず、しかし呼吸していて確かに何年もの月日を生きている者達に囲まれるというのも、中々な威圧感がある。

「座頭さん、あまり気を散らしていると、迷いますよ」

「あ……、ああ、ごめん」

「いえ、謝られるほどの事でもないのですが」

今、僕達がいる山には、四六時中、朝になっても夜になっても、それこそ半月時がたとうとも、ずっと変わらず濃い霧が僕達の視界を塞いでいた。

数メートル先も見えないこんな場所では、人間離れした蛟の方向感覚によるナビゲートが必須だった。

……いや、よく考えてみれば、僕も先の一件で確かに刀への仲間入りを晴れて果たしたのだけれど。

僕の身体能力は確かに強化されたものの、蛟や錏毘には到底かなうものではなかった。

おそらく、彼女、彼等のそれは、長い戦いの月日の中で磨かれたものなのだろう。

そして、なぜ僕達はこんな遭難必至の山中を登山の素人2人で歩んでいるのかというと。

この山……、正確には「霧切山きりぎりやま」と言うらしいが。

どうやらこの山の頂上に、「日本刀」の住まう小屋があるらしい。

そして、その使い手も、同時にいるらしい。

ヤバイバに住まう残りのギバイバがついに2匹となった今、ここが勝負時だと判断した蛟は、ギバイバを潰しきるための戦力増強のため、この山に登る事を僕に提案し、そしてこの僕も、それに乗ったのだった。


この山の頂上に、まるでこの山の御神体の様に置かれたその日本刀を誰も下界から手に入れようとしなかったのは、この「山」が理由らしい。

まず1つに、この霧切山が衣服の様にまとっている濃い霧だ。

数メートル先の景色すら見せないそれは、登山者の方向感覚を狂わせ、いつの間にか登山者を遭難させる。

さらにどうやら、この霧切山には、崖や鋭利な枝を持った大木、毒を持った害虫の巣など、霧に視界を奪われ、うっかり遭遇してしまったものなら登山者の命を奪いうる自然の罠が、大量に、かつ巧妙に仕掛けられているのだ。

登山者が頂上に到達するのを拒むように。

そしてこの山にも、もちろんバイバがいる。

霧の中、視界から攻撃されれば、いくら猛者でも1撃で殺される可能性もあるだろう。

おかげで僕の殺気を察知する能力も、ずいぶん上がった。


そしてなぜ、そんな入手「超」困難と言える日本刀を、わざわざ僕達からまみえに行っているのか。

どうして、頂上に住まう日本刀が、下界に降りてくるのを待たなかったのか。

その理由はどうやら、その日本刀の性格にあるらしい。

蛟に言わせると、こういう事らしかった。




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