第12話

終わりの無いもぐら叩き。

僕は目の前の光景から、そんな想像をした。

地面の下から僕を狙って際限無く大量のバイバが飛び出してくる。

その数既に100は越えただろう。

そしてその数と同じ数、バイバの死体が僕の周りに散らばっていた。

最初は至近距離で臓物を撒き散らすバイバに何度も吐き気をもよおしていたが、50を越えたあたりから吐き気も無くなった。

それに対しむくむくと膨れてきたのは、恐怖。

この数のバイバを何事も無いような顔をして切り伏せ続ける蛟への、畏敬と混じりあった恐怖。

そして、ここまで蛟に頼りきり、なお何の行動も起こそうとしない自分への怒り。

確かに、彼女は僕の「刀」だと言った。道具だと。

それならば、刀が自分の所有者のため、敵を殺し続けることは、なんの不思議も無い事なのだろう。

「ふっ……ふっ……ふっ……」

132体目のバイバの頭を細切れにし、僕のすぐ横を蛟さんが通り抜けた時、僕の耳を蛟さんの呼吸音が撫でた。

これが「道具」か。

道具だとしても……、僕は彼女を使っていると言えるのだろうか。

いや、使えて無いだろう。

と言うより……、僕が彼女に使われている。

命令を出され……、必死にそれに付いて行くので精一杯だ。

刀を振るうのではなく、振るわれている。

「くそっ……」

静かに、噛み締めるように、僕の口から悔しげな声が出た。

周りの光景は、まるでコマ送りされた映像の様に死体が一瞬で何体も積まれていく。

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

蛟さんの動きは、死体の山が高くなるにつれて段々と鈍っていく。

「くっ……!」

1体のバイバの刃がついに、蛟さんの頬をとらえた。

プシュリと、驚くほど赤い血が蛟さんの白い肌を濡らす。

「ギギッ!!」

「!」

蛟さんの動きが出血からかほんの数秒鈍る。

そのタイミングだった。

おそらく連携も無いもないであろう、地面から飛び出したバイバの1体が、この時を狙ったかのように、蛟さんの死角、ギリギリ視界から外れた場所から刃を飛ばした。

じゅるりと鞭の様にしなりながら一直線に蛟さんの頭部に向けて射出されたその刃への反応を、蛟さんは疲労からか一瞬遅らせてしまった。

その時

「うおおっ!!!」

誰の雄叫びか、認知するのに数秒かかった。

理性を吹き飛ばす、猛獣のごとき咆哮。

まさか、その声が自分の物とは……、そして、自分がいつの間にか地面を蹴り、蛟さんを突き飛ばしていたとは。

僕自身にも全く、その行動原理を理解することは出来なかった。

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