第13話
蛟さんの身長は、僕より随分低い。
そのため、蛟さんの頭を狙ったバイバの刃は、僕の左胸に、深々と刺さった。
ズップリと。
ジワリ、と僕の来ていたシャツに、生暖かい何かが広がる。
痛みは、驚くほどない。
おそらく、体が逃げているのだろう。
あまりに、激烈な痛みから。
まともに神経に伝えてしまえば、ショックで命を落としかねない痛み。
しかし、そんな一時の鎮痛剤の効果も、長くは持たない。
僕の視界が、端からゆっくりと黒く染まり始める
突き飛ばされ、地面にしりもちをついた蛟さんの、驚愕で目を見開く表情が見えた。
その奥には、少しの間表情を硬直させ、その次にニンマリと笑う、錏毘の姿。
ああ、あの顔。
蛟さんの分も含めて、ぶん殴ってやりたい。ほとんど初対面だけど。
最後にそんな物騒な事を思い浮かべ、僕の意識は暗闇に落ちた。
「……座頭……さん?」
蛟の目は、自分が命を捨ててでも守るべき存在である座頭の亡骸が、静かに地面に横たわっているのを写していた。
「はは……、ははははははは!!おいおいおい、久しぶりじゃないのか!?刀を庇って死んだ奴は!!そうそう!これだよこれぇ!!こういう展開を求めてたんだょぉぉぉぉ!!うぅぅん!?求めてたっけぇぇえぇ!?」
座頭の死体を目に動けない蛟とは対照的に、錏毘は口角を吊り上げ、狂喜乱舞。
地面を叩きながら、ヤバイバ全域に響き渡るような大声で笑っていた。
「これで
「……錏毘……」
蛟は言い返せなかった。
全て錏毘の言うとおりであったからだ。
ヤバイバに刺さる5本の日本刀は、持ち主が死ぬといつの間にか見知らぬ家屋に入れられ、次の持ち主が「拉致」され、部屋に落とされるのを待つ。
その間、日本刀は部屋を出ることを許されず、一切のバイバとの戦闘を禁止させられる。
刀は振るう者がいなければ、置場所と扱いに困るガラクタだ、と。
蛟の頭には、そんな言葉が張り付いている。
「君のその「毒」は脅威だからなぁ……。いや、これでまた安心して夜眠れるってもんだ。あぁ、良かった良かったぁー」
そう言いながら、錏毘はチラチラと蛟の反応を探るように、蛟に視線を向けていた。
(また……殺してしまった……)
錏毘は、何故か蛟を人一倍危険視していた。
それゆえ蛟の新たな所有者が落とされ、蛟に自由な行動が許されると、即座にどこからともなく現れ、所有者を殺していくのだった。
所有者が、素人の間に。
蛟を存分に振るう事の出来ない間に。
それが何度も、何度も続き、自分を道具と認識する蛟の心も、さすがに壊れかけていた。
(今回こそは……、何とかするはずだったのに……)
どれだけ悔いても、どれだけ足掻いても、結局錏毘には勝てない。
いや、どこからか、勝つことすら諦めていた。
その証拠に、蛟は自分の刀の能力を使わなくなった。
自分に言い訳したのだ。
(私の能力は、私の所有者にも被害が加わる危険性のあるものだ)
と。
少しでも心を楽にするために。
少しでも絶望を、和らげるために。
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