第14話

(いやぁ……、俺には蛟の様な「刀」を破壊する技が無いことを最初は恨んでいたが……。あながち悪くないな。やはり他人の絶望する顔は、何度みても悪くない)

くくくっ、と錏毘は喉を小さく震わせた。

どれだけ笑っても、掘られたばかりの源泉の様に喉から笑いが込み上げてくる。

(刀の破壊となるとあいつの専門だが……、俺達ギバイバは協調性が無いんだよなぁ。まぁ、俺もあいつらとは関わりたくないけど)

ひと仕事終えた錏毘は最後に蛟をじっくりと見つめ、余韻に浸りながらその場を後にした。




暗い。

電源を切られたテレビ画面の様な、機械的で均一な闇が、僕の周囲を支配していた。

先程のバイバの山にも負けない、四方八方暗闇。

すぐそこに壁があるようにも、永遠と空間が続いている様にも感じるその闇は、しかし僕に1つの事実を伝えていた。

僕が、絶命したということ。

僕の体の電源は、胸に刺さった刃にあっさりと止められ、おそらく地面に転がっているのだろう。

(……蛟さんは、大丈夫なのだろうか……)

おそらく、この状況で真っ先に心配すべきは自分の身体、およびおかれている状況なのだろうが、

僕の頭にまず浮かんだのはそれだった。

あの錏毘と名乗る、見るからに残忍そうな男の下に、1人放置してしまった。

まぁ、あのままあの場に僕がいても、蛟さんの邪魔だっただけで、見方によっては良い去り際だったのかもしれないが……。

いやいやいや。

僕は何を冷静に、今日の舞台の出来を振り替える役者みたいになっている。

僕は死んだのだ。

「え……?やっべぇどうしよう……」

ようやくここで、僕の体に冷や汗と言うものが流れ、ザワリと鳥肌が全身を駆け巡った。

生前、死ぬとどうなるのだろう……、と考えたのは1度や2度ではないが、まさかこんな暗闇が広がっているとは。

(おっ……?おっおっえっ!?どうすんの?どうするんの?これ!!)

天使は一向に迎えに来ないし、花畑は見えないし、目の前に三途の川も流れてこない。

「つまりてめぇは、まだ死んでねぇってことだ」

「!?」

いつの間にか、あたりの闇が変わっていた。

闇には変わりないが、どこか暖かい。

幼児が画用紙にクレヨンで書きなぐった絵のような、そんな感じの闇。

そして僕の目の前に、男が立っていた。

おそらく180はゆうに越えているだろうその背丈に、無駄の無い筋肉を蓄えている。

しかし、それを包んでいるのはボロボロの色褪せた群青色の着物。

袖や腰を辺りの布はボロボロに擦りきれ、よくみるとあまり綺麗ではない。

髪もおそらく長年切り整えていないのだろう。伸びきった髪の毛は行き場を探し、あらぬ方向に跳ねている。

しかしその男の眼光は鋭く、見るものに自然と敬意を覚えさせる雰囲気も兼ね備えていた。

「あ……、あなたは……?」

「おう。俺の名前は死木島左近しきじまさこん。刀鍛冶だ。よろしく」

「僕は座頭公麿です。よろしくお願いします」

「おっ、何だ案外落ち着いてんじゃないかよ。あせって出て来て損したわ」

そう言って豪快に笑う死木島さん。

どうやら名前の不穏さとは裏腹に、快活な人物のようだ。

「それで……、あなたが天使ですか?」

「いや刀鍛冶。つーか言っとくけどまだお前死んでねーから、公麿」

下の名前で久々に呼ばれた。

初対面で下の名前呼びとは……。僕には到底出来ない、離れ業だ。

「まぁ……、ここは今際いまわっつーんか?おめぇはまだ、死ぬギリギリで粘ってんだよ」

「今際……」

「普通に死んでりゃこんな事はおきやしねぇ。しかし公麿、お前は普通に死んでねぇ。死因が普通じゃねぇ。バイバっつー他の生物とは一線を画するやべーやつに殺されたんだ」

「やっぱり死んでるじゃないですか」

「言葉のあやってやつだ。気にするな」

「あやや……」

「……、まぁ、良い。お前、蛟からこのヤバイバの事はどれくらい聞いた?」

「それは……、まぁ、ギバイバって奴らを倒さないと出られない、理不尽な領域だとは……」

「……なるほどな、あいつ錏毘に殺られ過ぎて無気力になってたんか、説明かなりはしょってやがる。良し!公麿、耳の穴かっぽじって良く聞け。今からお前にヤバイバと言う領域がどの様な物か教えてやる」

「は、はぁ……」

まさか死んでから、あの異常な領域について聞かされる事になるとは。

どうやは僕は、まだあの領域から逃げる事が出来ないらしい。

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