第15話

「このヤバイバっつー領域は、まぁ簡単に言っちまえば「パワースポット」って言うやつだ」

「山とか歴史ある神社仏閣……、それに自然だとか、そう言うのの仲間だと思えば良い」

「ただ……、今挙げたのは全て「プラス」のパワースポットだ」

「良縁に恵まれたり、憑き物を落としてくれたり、体のわりぃ所が治ったり……」

「しかしこのヤバイバは同じパワースポットとって言っても「プラス」じゃねぇ、「マイナス」なんだ」

「それも、日本の他の「プラス」のパワースポットを総動員しても釣り合いが取れないレベルの、超超超「マイナス」パワースポット」

「……このヤバイバは、日本で人間の大規模な戦が始まったと同時に、自然と、ぼんやりと、だが確実に形成された」

「つまりどういうことか……、わかるか?まぁ、少しは検討がつくかもしれん。……ヤバイバは、戦で死んでいった者達の無念、憎悪、悔恨……、ありとあらゆる「マイナス」から形成されたと言うことだ」

「そしてバイバだが……、これは、その戦で死んでいった者達の「怨霊」……。死んでも死にきれないと言う思いが、歪な形で彼らをこのヤバイバに、現世にしがみつかせた」

「彼らが持つ死へ繋がる具体的なイメージで1番強いのが……、おそらく「刃」なのだろう」

「死に際に最後に見たものも、自分を切りつけようと振り下ろされるそれだったのかもしれない」

「その圧倒的な恐怖が、彼らの怨霊としての体を形成するさいに現れたのだろう」

「彼らの「マイナス」として。「うらみ」としてな」

「そしてヤバイバ形成から数百年後、そんな彼らをこの世界から「切り離す」、成仏させてやるために、ある高名な霊媒師がとある刀鍛冶に、5本の刀を作らせた」

「霊媒師はその刀に自らの「気」を込め、何らかの方法でこのヤバイバへと、5本の刀を送り込んだ。そしてその刀を振るうための使い手達も同時に……な」

「最初は霊媒師が自ら使い手を選別し、相応の猛者のみをヤバイバに送り込んでいたが……」

「その霊媒師が死んでからまた既に数百年以上はたつ」

「段々とヤバイバの存在を知るものは居なくなり、そこにはバイバを切るため、ヤバイバに送り込まれる人間が要るという事実だけが残った」

「選別は無くなり、いつの間にか何か得たいの知れぬ巨大な力の様なものが無作為に一般人をヤバイバに放り込み始めた」

「俺はそれを見ているだけで……、なにも出来なかった。なぜなら俺はお前と違ってもう完璧に死んでいるからな……。ある意味現世であるヤバイバに、ほとんど手が出せないのよ」

「つまり今、お前と話せているのはかなり幸運。お前の往生際の悪さと、お前を刺したバイバの刃から少しだけ、お前の体に「刀」の成分が流れ込んだ……。それが決め手になって、俺はお前と話せてるのさ」

……どうやら、これで終わりのようだ。

最後の方は、ヤバイバがどの様な物かと言うこととはあまり関係の無い事だと思うが。

成仏することの出来ない、怨霊達の棲み家。

それがこのヤバイバで……、バイバ達の正体。

(ならばあの男も……、錏毘と言う男も、何年も前に殺され、そして怨霊となってあの地に居るのだろうか)

誰かが自分を切り捨て、救ってくれるのを待っているのだろうか。

「そして今、この話を聞いたお前には、2つの選択肢がある」

一呼吸置いて、死木島さんが話始めた。

少しだけ、顔に焦りがあるようにも見える。

そう言えば先程、僕と話せているのは幸運だったと言っていた。

あまり話せる時間も、長くないのかもしれない。

「1つはこのまま生を手放し、ゆっくり次の人生のプランを練るか」

「……それとも、俺から6本目の刀を受け取り、お前自身が新たな「日本刀」となって蛟の隣に戻るか……だ」


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