第58話
白雨が、左手を前に出す。
するとそこに、空気中から突如現れた白い個体が集まり始めた。
白い個体は大量に集まり続け、そしていつの間にか白雨の左手には、直径1メートル程の巨大な白球があった。
「「
霧に覆われた霧切山の湿った空気に、白雨の叫び声が響き渡る。
そして
ボムッ!と言う重たい音と共に、白雨の左手から白球が発射された。
その速度は、並大抵のものではなかった、
発射されて1秒たったころには、既に六畳ヶ原の目と鼻の先まで、白雨の白球は迫って来ている。
その巨大な白球を。
六畳ヶ原は、右手に持った日本刀の細い刀身を撫でる様に白球の側面に当てて軌道を曲げ、1歩もその場から動く事無く白球を弾き飛ばした。
「重い……。質量も半端なものでは無かったが……、まぁ、何とかなったな」
弾き飛ばされ轟音と共に地面に落ちた白球を見ながら、六畳ヶ原は言う。
「しかし……、何度もこれを繰り返せば、こっちが先にやられる……。行くか」
そう言うと六畳ヶ原は腰を深く落とし、右手に持った刀を前に突き出し、左手はバランスを整える様に体の横に置いて、構えた。
腰から下、いつでも飛び出せる様に曲げられた両膝には、既に十分な力が溜まっている。
「脱刀……「
そう言うと六畳ヶ原は、脱刀を前に突き出したまま、前に飛び出した。
「っ……!「白色剛弾」っっ!!」
それを見た白雨も即座に技を発動したが、もう遅い。
足に全身の力を溜め、そしてそれを地面に放つことで起きる、超加速。
そしてその時地面から帰ってきた力を刀を持った右手に伝え、その力を「脱刀」の剣先1点に乗せた、脱刀最速の突き、「罰気」。
それは白雨の喉元に突き刺さり、易々と甲冑を貫通して、白雨の命を突き通した。
「かっ……かっ……」
六畳ヶ原が白雨の喉に突き刺した脱刀を抜き、地面に崩れ落ちた白雨の死を確認した所で、ようやく破流雨がやって来た。
小屋の屋根の上に立ち、六畳ヶ原を見下ろしている。
その目は六畳ヶ原を警戒する様に注意深く動いているが、しかしどうやら頭の中にあるのは死体となった白雨の様だった。
「かっ……、あっ……、あっ……白雨ぇ……。遅かった……遅かったのかよぉぉおぉ……」
震える声で破流雨は白雨に呼び掛けるが、白雨からの反応は、当然無い。
決着があまりに早く、あまりに静かにつきすぎた。
戦闘開始から終わりまで、5秒とかかっていないだろう。
「あ……あぁ……白雨ぇ……。我……ぁ……。お前の死を無駄にはしないよぉぉぁあぉ!!」
「っ!!」
奇声を上げ、破流雨が屋根から飛び降り、六畳ヶ原に突撃を開始した。
獣の様な叫び声に一瞬全身を強張らせ、体を硬直させられた六畳ヶ原だったが。
そんな余計な緊張は、直ぐに「脱」けた。
体全身が、1流のマッサージを受けているかと錯覚するほどリラックスしている。
(これが……、「脱刀」の能力か……)
六畳ヶ原は、この数分で何度もこの異様な程体の力が脱ける現象に立ち会っており、そしてそのたびに戦慄していた。
もちろん、この「脱力術」は、六畳ヶ原のものではない。
その右手に握られた、「脱刀」の能力によるものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます