第57話

祖父は、生命を謳歌した。

その体で精一杯「生」を感じ、そして死に迎えられた。

その死に様は、生を味わい尽くした男を死が祝福し、抱擁したかの様だった。

それはただの、六畳ヶ原の感じたまでの事であり、目には見えない、他人が同じ光景を見たならば、おそらく別の事を考えるであろう。

それほど、不安定な景色だった。

だが、確かに見えた景色。

「生命を……「謳歌」する……か……」

六畳ヶ原は呟いた。

そして、ゆっくりと立ち上がった。

壁の支えを必要とはしていない。

己の意志を覚悟で武装して、立ち上がった。

「……祖父が死に際に見た「景色」を見るため……、私ももう少し、生にしがみついてみよう……。例え不様でも、醜くても……」

「……目が、立ち姿が、変わった「気」がします……。この領域の説明を何もされていないのに……。本能でこの領域に「立ち向かう」事を決めた……「気」が……伝わって来ます」

「説明不足は、多分君のせいだけどな!……そういえば、名前を聞いていなかったな、私は六畳ヶ原、君は?」

「……私の名前は、「脱刀」仙失……。今からあなたの武器になる……べきな「気」がします……」

そう言うと、仙失は初めて、六畳ヶ原の前で立ち上がり、その長い髪の間から唯一覗いた左目で、六畳ヶ原を真っ直ぐ見つめ。

「刀身顕現……」

そう言った……「気」がした。



2人組のギバイバ、灰色の甲冑の「破流雨」、純白の甲冑の「白雨こなゆき」は、小屋の裏口と表口を挟み込む様な形で2手に別れ、脱刀が小屋から出てくるのを待ち構えていた。

「さて……、いつまで持つか……」

裏口の前に立った白雨は、言う。

ギバイバやバイバは、何故かヤバイバに建てられた建造物を壊す事が出来ない。

拳をぶつけようとしても、体がそれを拒否するように止まる。

飛び道具を使っても同様、何か見えない物に阻まれ、軌道を曲げられる。

しかし、決して直接的な被害を与える事が出来なくても、ギバイバがここにいると言う事実は、確実に小屋の中に隠れた人間の精神に負担を与える。

今まで、どこか別世界の住人だった「死」が、すぐそこに、触れられる距離にいるのだ。

(持って20……、中で自殺していると言う可能性もありますけど……)

そこまで考えて、白雨はもし中であの六畳ヶ原おとこに自殺されれば、結局自分達はあの小屋の中にいる日本刀を手に入れる事が出来ないのではないか……と、一抹の不安を感じたが、

その不安も、杞憂に終わる。

白雨の目の前、小屋の裏口の戸が開いた。

力強く開け放たれたわけでも、怯える様に少しずつ開けられたわけでもない。

ただ、裏にある畑に野菜を取りに行こうかと言う、そのくらい生活の1部になった動作の、その位のスピードで。

裏口の戸は、開いた。

そして出てきたのは、地味な色の着物を着た青年。特筆すべき特徴は、白雨の甲冑にも負けない真っ白な髪色だが、それ以外は着物の色と同じ、1般的な青年だ。

そしてその右手には、刀身を真っ黒に染め上げられた「日本刀」が握られていた。

(いや……、日本刀と言うには、刀身の形が少し……)

青年の右手に握られた日本刀の刀身は、まるで針の様に細く、振り方を間違えれば簡単に折れてしまいそうなものだった。

「……しかし、まぁ……。早々に小屋から出て来てくれて助かったよ。何だい?もう覚悟は決めたのかな?」

「……ああ、決まったよ……」

白雨の言葉に青年はうつむきながら、どこか生気の無い口調で答える。

「そうか……。それなら、楽に殺してあげましょう」





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