第59話

脱刀、仙失。

その刀の異能は、その刀を握った使い手の全身の力を適度に抜き、そして仙失の中にある長い歴史の中で脈々と受け継がれ、鍛え上げられてきた技を緊張のほぐれた体に刻み込んでいくと言う物。

仙失を握った事によってリラックスした体は、まるでカラカラに乾いたスポンジの如く、剣術をなんの抵抗することなく吸収していく。

そして力を抜かれ、力みを抜かれた体は、その仙失持ち主が驚く程動く。

まるで、何年も剣の修練に明け暮れた侍の様に。

持ち主が赤子であろうが、老人だろうが、骨折した人間だろうが、脳に障害を持った人間だろうとも。

強制的に、1流の使い手に変える。

そして……自分を振るわせる。

「私自身……戦う「気」は、一切ありません。あなたが戦うのですよ。六畳ヶ原さん……」

仙失はその姿を1振りの突刺剣レイピアに変える前、念を押すようにそう言った。

その言葉に1度は不安を抱いた六畳ヶ原であったがしかし、突刺剣に姿を変えた仙失を握った瞬間、その不安は霧散していった。

(これは……、刀が、私の体に馴染む……。何年も時間を共にした骨董品の様に……。違和感なない……)

そしてその違和感の無さ、体に馴染んだ感覚は、白雨に叩き込んだ「罰気」の破壊力が物語っていた。

体の力を抜き、技を与えるだけとも言える仙失であったが。

確かに、このヤバイバを壊しうる力を持った日本刀の1つであることに、全く相応しい性能であった。

「あぁああああ!!!」

そして自分に鬼の様な表情で突撃してくる破流雨にも、六畳ヶ原は全く動揺していない。

(あぁ……まるで、画面の向こう、ゲームの画面の中にいるモンスターの様に見える……)

体は全く震えていない。

六畳ヶ原は、今、最も最適な攻撃を破流雨に叩き込む自信があった。

「ぐおらぁっ!!」

「ふっ……!」

破流雨の壊れた人形の様な不規則な動きを六畳ヶ原は読み切り、破流雨の右手から繰り出された横凪ぎを姿勢を低くすることでかわし、カウンターの様な形で仙失を破流雨に突き出した。

カカカッ!!と、破流雨の甲冑と、仙失のぶつかる音がヤバイバに響く。

(っ……!こいつ、白雨よりも甲冑が硬い……)

「はぁぁぁあ!!!」

予想以上の堅さを見せた破流雨の甲冑。

そしてその堅さを最大限利用するかの様に、破流雨は六畳ヶ原の刺突に全く怯まず、そのまま体を全身させ。

六畳ヶ原の奥で倒れていた白雨の死体を拾い上げ、霧の中へと消えていった。

「……終わり……なのか……?」

六畳ヶ原の立つ霧切山の頂上に残ったのは、小さな小屋と、白雨が作り出した大玉、そして地面に染み込んだ白雨の血液と、変わらず視界を阻み続ける濃い霧。

あまりスッキリとしない結末に六畳ヶ原の心はもやもやと雲っていて、とても大声を出して喜ぶ気にはなれなかった。

それとも、最初から喜ぶ「気」が無かっただけかもしれないが。





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