第20話
「うぎっ……!ぐぐぅ……」
座頭市の刃を伝って、僕の手には厚い肉の重みがのしかかっていた。
今まで、どこか一方的にバイバ達を切り捨て、迎撃していたが……。おそれていた事が、起きてしまったのかも知れない。
正面からの、まともなぶつかり合い。
今までの比ではない。
顔面を切り裂き、足を切り飛ばし、腕を切りつけたとしても、そのまま真っ直ぐ、バイバ達は進行してくる。
落ちないのだ。力尽きて、命尽きて。
「「「「オァアァァ!!!」」」
そうすると元々細い座頭市の刃は、バイバ達の中に巻き込まれ、カッターナイフの刃のように簡単に細切れにされてしまう。
おそらく、この戦術を可能にしているのは、バイバ達の根性なのだろう。
錏毘の命令を絶対に達成すると言う、狂気じみた忠誠心。
何が彼らをそこまで駆り立てるか僕には分からなかったが、明らかに戦局が錏毘有利に傾き始めたことは、座頭市の中心としてこの刃を操る僕には嫌でも感じ取ることが出来た。
そして、挽回しなければ。
「……蛟さん!いけますか!?」
「了解しました」
蛟さんは僕の声が発せられた瞬間には既に走り出していただろう。
「ふっ!!」
蛟さんは地面を蹴る加速をそのままに、跳躍した。
同じ刀になったとは言え、まだ僕には到底引き出せ無いであろう跳躍力。
そして蛟さんは、ストンと。まるで重力を無視するように、僕の座頭市の細い1本の刃上に着地した。
(まだ完全に体力は回復していない……、がしかし!!今この瞬間は確実に錏毘を倒す千載一遇のチャンスッッ!)
「座頭さん!私の近くに来ないで下さいね!死にますから!」
「……?わ、わかった……!」
僕には蛟さんが何を言っているか良く分からなかった(今までは蛟さんの近くに居ないと死んでいたから)。
しかし、僕は次の一時で、嫌でも理解させられる。
蛟さんの蛇苦蛇苦刀の、真の危険性に。
何故錏毘が彼女を恐れたのか、その理由にも検討がつくことになる。
蛟さんの両腕に生えた2つの刃が、さらに紫がかった黒に変色している。
さらに毒々しく、自らの刀身を染めていく黒。
その刀身は、自らを毒の王だと名乗らんが如く気迫と危険性をもって、その刀の完成を高らかに宣言した。
「「「「バリュイ!!!」」」」
しかし、綱渡りの様に1本の座頭市に体を預ける蛟さんは、バイバ達の格好の的になる。
しかも、相手にしているバイバは1体や2体ではない。
その数は、軽く万を超す。
それゆえに、一息で何百と言う数のバイバが蛟さんに殺到した。
しかし、彼らの刃は蛟さんに届かなかった。
「「「「ゴボッ……!!」」」
蛟さんに後50センチ程まで迫ったバイバの1体が突然白目を向き、血を吐いて地面に墜落した。
「アビッ……!アギゥ……!!」
地面に落ちたバイバはビクビクと痙攣しながら、痛烈な悲鳴を上げ地面をのたうち回った。
「アギェ……!?」
「ア……、アガ……?」
「ゴボッ……」
そして、蛟さんに同じように近付いたバイバ達も連鎖するようにして地面に落ちていった。
全てのバイバが、おそらく激痛からだろう。
触手の様な刃を震わせ、しかし指1本動かすことの出来ない。そして異様な痛みを感じながらも何故か、意識を手放すことが出来ない、死ぬことが出来ない地獄。
「これが……、蛇苦蛇苦刀……」
多分だが今……バイバ達を苦しめているのは蛟さんの両腕の刃から発生した紫色の蒸気。
蛟さんを中心に、決して風に流されること無く霧散しないその蒸気の正体は、特殊な毒なのだろう。
(……そうだ。今の僕なら蛟さんを、サポート出来るかもしれない……!)
僕は座頭市の刃を操作する。
今まであらゆる所に、広く射程を広げていた大量の刃を、蛟さんを中心にして円の様に配置し、それを上下に少しずつ円の半径を小さくしていく事で、卵型の刃のドームを完成させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます