第21話
座頭市の刃が作り出した卵形のドーム。
その中にいるのは蛟さんと、大量のバイバ。
僕はドームの外側に居るので、中の様子はわからないが、あの毒をまとった蛟さんが負けるとは思えない。
それより僕は、この蛟さんが大量のバイバを相手にしている間に、錏毘を倒さなければならない。
蛟さんを執拗に狙い、身動きを取らせなかった錏毘の行動は、蛟さんの能力が自分に最も都合の悪い……、天敵となり得る物だと理解したから、何度も所有者を殺し続けた。
蛟さんの力が最大限発揮される前に。
(……さっき、蛟さんが錏毘との会話で言ってた……)
錏毘の支配下に置かれたバイバ達は、あなたの体の1部だと。
その言葉を錏毘は否定しなかった。
ならばおそらく、錏毘が作り出したし、支配下に置けるバイバの数にも上限があるだろうし、自分の体の1部が毒に侵されれば、本体も完全に無傷と言うわけにはいかないだろう。
(しかし……、おそらく作り出したバイバが死んだ場合は別……。死んだバイバの肉体は錏毘の1部に戻り、再びバイバを作り出す肉体のストックが増える……)
それとも、何か他に別の理由があるのかもしれないが(実は内臓はずたぼろとか)。
それゆえ、苦しみながらも絶対に死ねない蛟さんの毒は、錏毘の天敵なのだろう。
僕はドームの反対側に居る錏毘を倒すため、ドームの外周を回り、反対側にたどり着く。
そこにはやはり、錏毘。
しかも、その顔は痛みに歪み、声を上げぬ様にか必死に歯を食い縛っている。
「1体の死……、1体の毒……。1体なら良いんだよ!いや何体でもいい、「死にさえすれば」ぁ!!どれだけ連続してもぉぉ!!そこに0.1秒でもタイムラグがあればぁ!!その間にバイバの肉体は本体の俺に戻って来るぅ!!!しかぁしぃ!!」
おそらく、僕に向けて言っているのでは無いだろう。
痛みで自分を折れない様にするためか、錏毘は大声を出して自分を鼓舞しているのだ。
「蛟の毒は死なねぇ!!殺さねぇぇぇ!!だから俺の体にも蓄積されていっちまうんだ!毒がぁぁぁぁ!!!ぐぅっ!!」
錏毘の体がよろめく。
錏毘は倒れそうになる体を足で支え、何とか体勢を立て直した後。
「でぇ……、てめぇも何なんだこの糞ガキがぁぁぁ!!!」
叫びと共に、錏毘の体から15体のバイバが一瞬で作り出され、僕に向かってくる。
そう言えば、錏毘の体からバイバが生成されるよを直接見たのは初めてかも知れない。
体の部位は関係無いのだろう。バイバ達は右腕、左足、額、頭、目などから汗か涙か出るようにしてごく自然に、そして素早く生成された。
(………!)
毒がかなり回って来ているのだろう。錏毘から作り出されたバイバ達の動きが、鈍い。
そのため、座頭市の刃に、簡単に貫かれ一瞬で動きを止められてしまう。
肉壁の役割も果たすことも出来ていない。
僕は真っ直ぐ、最短距離で錏毘との距離をつめる。
座頭市を常に100本は抜刀し、使いこなせているかはわからないが油断はせず、地面の中にも刃を潜らせている。
「がぁぁぁぁ!!!まだだぁぁだぁぁぉ!!!!出てこいお前らぁ!!!」
しかし、錏毘の体はバイバを作るため皮膚が盛り上がる事もなく、バイバが現れるための兆候を一切見せなかった。
「…………っ……!!」
錏毘の表情は完全にやられた、と言うものだった。
そしてその理由は、僕にも少しながら、推測することが出来た。
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