第22話

怨刑無限刀の特徴は、刃に士気があるということだ。

奮い立たせる事が出来れば、その刃はいつも以上の強さを発揮する。

劣勢になれば、その刃は錆び付いた様に切れ味が悪くなり、弱さを際立たせる。

使用者の使い方しだいで強くも弱くもなる。

安定して人を殺すために、実力に変動の無い道具を使うのだろうが、その観点から見ればこの怨刑無限刀はかなりの欠陥品である。

しかし先程、錏毘は刀を奮い立たせ、硬直状態を破った。

それは、この怨刑無限刀がその強さ有効に発揮した良い例だ。

そして今、怨刑無限刀はその刃を鞘から抜かれる事を拒んでいる。

何故なら、斬りかかったとしても、折られる可能性がこの上なく高いから。

毒に侵され、全身が痛いから。

動きたくないのだ。

バイバの錏毘に対する絶対的な忠誠心を、蛇苦蛇苦刀の毒の圧倒的な恐怖が飲み込んだ。

結果的に怨刑無限刀の「士気」は今、底辺にあると言って良かった。

(座頭市のドームも、威圧を含めた演出なんだけどね……。効果的だったかな?)




「………っ!?」

薄暗い、大部屋。

しかしその室内は明るい男達の声で満たされ、部屋の真ん中で静かに揺れる蝋燭の火も、心無しか明るさを増している様に見える。

蝋燭を中心にして丸い円を描く様に座った男達の前には、豪勢な料理が置かれていた。

魚、肉、酒……、どうやら、何かの祝勝会……宴会の様であった。

「いんやぁ〜、やりましたね!!頭領っ!!」

「!」

隣の男にバンと背中を叩かれ、顔を下に向けて何か呆然としていた男は体をビクリと震わせた。

「……あ、ああ……」

当たり障りの無い生返事。

「どうしたんすか頭領、顔色悪いですよ!今日は大仕事を成し遂げた宴会ですよ?楽しみましょうって!!」

「お、おう。そうだな……」

頭領と呼ばれた男の顔色は、部下の明るい声を聞いた後でも以前変わる事はない。暗い……、困惑したものだ。

(どうして……、俺はここにいるんだ……?)

男の頭の中は、戸惑いと驚愕で支配されていた。

(ここは……、俺が死ぬ前に率いていた……)

とある隠れ里を拠点とする、諜報組織。

名前を、「錏毘組」。

戦国時代、同業者達から密かに「率いひきいびと」と呼ばれていた錏毘をリーダーとする、今は無き、戦国の血風に飲み込まれた組織であった。

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