第19話

本当に、今自分の隣にいるのは座頭なのだろうか、と。

蛟は簡潔に、しかし深く、その問題について考えていた。

1時間程前の彼は、確実に、蛟が守ってやらないとこの領域では5分と持たない、脆弱な存在だったはずだ。

しかし、今目の前にいるのは、満身創痍となった自分を守り、錏毘の軍勢と互角に戦う一振りの刀。

いや、これを一振りと言って良いものなのだろうか。

最初から、この様な力を座頭が持っていたとは思えない。

おそらく先の数刻、座頭の胸に刃が突き刺さり、蛟が錏毘に罵詈雑言を浴びせられていた間に、座頭の身体に何か変化が起こったのだ……、と蛟は予想した。

(まさか死木島さんが……、いや、それはあり得ない……)

彼はとうの昔に死んだはずだ。

考えれば考えるほど、蛟の混乱は深まっていく。

とにかく今は、この戦いを見届けなければ……。と、蛟は静かにそう決断した。



戦いは、完全に硬直状態になった。

突撃したバイバを座頭市の刃が貫き、さらにその後ろにいたバイバを座頭市が貫く……。

変化といえば、ヤバイバの地に積み重なった死体が、恐ろしい速度で増えているということ。

ヤバイバの歴史長しと言えど、ここまでの死体がこの短期間で積み上がったのは今が初めてだろう。

(ちっっっ!!!何だあいつぁ!?さっきまで蛟の陰に隠れてビクビクしてただけの小物だったはずだぁぁぁ!?!?!?その証拠にあっさり雑魚バイバに殺されやがった!!だが……なんだなんだなんだ!?!?!?いきなり復活しやがったと思ったら、今度は俺と張り合ってやがるぅぅぅ!!!)

そしてこの状況に、1番驚愕していたのは錏毘であった。

ここ数千年、いやヤバイバに産み落とされてから、錏毘の軍勢は1度も数で負けたことはなかった。

ましてや一対一で……、まず勝負になったことなど無かった。

(そうだぁぁ、俺の怨刑無限刀は無敵のはずなんだぁぁ。だから今まで生きてこれたぁぁ。元々100いた同胞のほとんどが殺されたが俺は残ってるぅぅ!!)

「てめぇらぁあぁぁあああ!!!もっと本気だしやがれぇぇぇぇぇ!!!」

まるでその叫びは魔法の様だった。

粗暴で、乱雑な、決して励ましているとは言えない叫び。

しかしその声で、その一声で、バイバ達の士気は大きく上がる。

「「「「「ギィィィィィィ!!!!」」」」」

硬直状態が、崩れた。

錏毘の叫びに当てられたバイバ達が、座頭市の刃を無理矢理押し始めた。

「ぐおっ!!」

座頭市の刃は非生物だ。

調子の上がり下がりもなければ、感情もない。

いつも同じコンディションで、淡々と敵を処理し続ける。

しかし、曲がりなりにもバイバは生物なのだ。

調子の浮き沈みもあれば、薄いとは言え感情もある。

それゆえ、弱体化するときもあるが……、驚異的に強くなるときもあるのだ。

それは座頭市にはない怨刑無限刀の弱点であり、最大の長所でもあった。



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