第18話

その瞬間、僕の体は大樹の中心。

絡み付くあらゆる根をささえ、決して倒れることのない本幹へと姿を変えた。

「うおおおおっ!?!?!?」

体から生える体毛の数より多いのでは無いだろうか。

僕の体の部位という部位から、大量の細い刃が形成されていた。

その数1000、10000、100000……、1秒ごとに驚く程のスピードで、その刃は増えていく。

これが……、死木島さんの言っていた……。

千樹刀せんじゅとう……、「座頭市ざとういち」っ……その能力か……」

死木島さんは僕にこの刀を渡した時、この刀の事をこう語っていた。

「この刀……、名付けるとすればまぁ「座頭市」か。お前の名を取って。この座頭市のコンセプトは物量押し……、数の暴力だ。ギバイバで言えばお前の目の前にいた錏毘に近い。とにかく大量の刃を出し続け、敵を制圧する……。使いこなせば一対数万の軍勢でも戦える代物だ。自分で打った物だが、強すぎて寒気がするぜ」

……確かにこの光景は圧巻だった。

恐怖と言う感情が薄いであろうバイバ達も、あまりの光景に足を止めて呆然としている。

目の前に唐突に現れた、刃の樹海。

「立ち止まるなおめぇらぁぁぁぁ!!!!」

しかし、この座頭市を目の前にしても、錏毘は何ら動揺した様子は無い。

同じ「数の暴力」を得意とし、使うためか。慣れているのかもしれない。

「行けぇぇぇぇ!!!!」

これは、僕の口から出た物だ。

悲鳴ではない、刃を突き進ませるための、自分を鼓舞するための裂帛。

僕の体から顕現した座頭市は、驚くほど素直に僕の命令に従う。

数万の刃がいっせいに、目の前のバイバ達に突っ込んだ。

バイバの山と、刃の樹海のぶつかり合い。

まず響いたのは、バイバ達の肉が潰れる音。

1つ1つは大した音量では無いかもしれない。しかし今、同時に数万の肉が潰れたのだ。

ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち

筋肉の繊維が、神経が、骨が、臓物が、刃が、万の単位で同時に潰れた。

そして次に血の雨がふる。

ドサッと。空中から巨大なホースで一気にぶちまけた様な、血の超絶集中豪雨。

口を開けてなくても、全身が血の味と言うものを肌で感じている。

べっとりとした、絡み付く鉄分のざらりとした風味。

「「「「「ギッシャァァァァァァ!!!!!」」」」

これが人の軍勢ならば、今一連の出来事で怯み、確実に士気が落ちていただろう。

しかし、これはバイバの軍勢だ。

錏毘上位種の一声で、簡単に勢力を盛り返す。

前にいたバイバを盾にして、その後ろにいたバイバの大二波が、即座に僕達に飛びかかってきた。

「ふっ!!」

しかし、僕の体には、想像以上に座頭市が馴染んでいた。

ほとんど脊髄反射で指示を出していると言っても良いだろう。

頭で考える前に、刃が動く。

刃と刃が擦れる金属音が、何重にも響く。

そして肉の潰れる音。

金属音と肉の音の二重奏。

考えられる最悪の合奏の1つとも言っていい音が、このヤバイバと言う領域をコンサートホールにして鳴り響いていた。






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