第43話
「ぐっ……」
じんわりと、夜桜の頭突きを喰らった額が痛むのを、突雨は感じた。
先の左拳と、同じ。
同じ人間から放たれた、若干やけくそぎみの一撃。
体に穴を開けられ、そこから際限無く溢れ出る血液で、夜桜の足元には黒い血溜まりが出来ていた。
「ふぅー……ふぅー……」
頭突きをされた瞬間、顔が近付き当たった
しかしそれでも。
目の前の男は、未だ、あれだけの頭突きをしたのにも関わらず、2本の足で立ち、獣の様な2つの
そんな夜桜の両目を突雨が直視した瞬間。
突雨の体に、熱を持ったこてを押し付けられたかのような激痛が走った。
(……これは……っ!!)
夜桜に気取られない様にするため、何とか表情に出すのは我慢したが、突雨の体を駆け巡る痛みは、止むことはない。
そしてその痛みに、突雨は覚えがあった。
土、泥、土。雨、雨、雨、雨、雨。
顔の上を、数多の男達の怒号が飛び交っている。
ガシャガシャと鎧の擦れる男が響き、甲高い鍛え上げられた鉄のぶつかる音が響いた。
ずむりと、腹に重い衝撃が食い込んだ。
普段ならウプッと声を出しそうになるところだが、今の男には、声を出すための息を吸い込む力も、それを吐き出す力も残されていなかった。
男の全身には大小様々な穴があき、生命線のはずだった男の体を守る鎧は、バラバラに破壊され、地面に転がり泥にまみれていた。
雨、雨、雨、雨。
容赦なく降り続ける雨が、男の傷口に侵入する。
冷たいはずのそれは、傷口に入ると熱湯に早変わりした。
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い。
肉を切られ、直接内臓を触れられているようだった。
体の中を、絶えず異物が流れ、無作法にいじくり回していく。
あまりの激痛からか、体は感覚を保つ事を諦め、プツリ、プツリとテレビの電源を消すように末端から感覚を無くしていく。
次第に男の体から感覚は消え失せ、何も聞こえなくなり、何も感じなくなり、どこも動かす事が出来なくなった。
最後に男が感じたのは、自分の頬を伝う、熱い何かだった。
(そうか……、この痛みは、我が死んだときの……)
そして、それがまた、体の中で疼き始めたと言うことは。
死が、
すぐそこまで、迫ってきている。
そしてそれをもたらすのは、目の前で満身創痍となっているこの
それとも、後ろで両手に構えた拳銃を自分に向け続ける、背の高い
それとも……
「……1分、お待たせしました。夜桜さん」
「やはり貴方は、当たり《私の持ち主にふさわしい》でしたよ……。最高のね」
そして少女は小さく、淡々と。
1人言の様に、呟いた。
刀身顕現
……ああ、この小さな刀なのだと。
突雨は確信した。
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